ゆうべによんだ、特にお気に入りなあれやこれ。【2016年上半期】
初めての試みですが2016年に読んだ本の中で、特にお気に入りの作品をいくつか挙げてみたいと思います。
世にいる「本好き」の中で、決して胸を張れるような読書量ではなく、私が読む選書から既に偏っているのですが、ごく個人的なお気に入りの本をまとめたものを作ってみたくて。
おすすめというより、お気に入り。
……とはいえ大概の小説を美味しい美味しいと言って食べてしまう私。
すきなものの中で順位を付けるのは、誰にとっても難しいはず。
ベスト30や5選など具体的な数字をつけようとすると、悩みの螺旋から抜け出せなくなるので、独断でいくつかに分類して、特に印象に残っている数作品を挙げてみました。
(この時期から始まる夏の文庫フェアのお祭り感にあてられたわけではないですよ、ほんとですよ、ほんとほんと)
発売時期によらず、私が2016年上半期に読んだものの中から。
挙げた小説の大体は、感想記事にしているので記事URLも添えておこうと思います。一応、注意書きをしてあるとは思いますが、しれっとネタバレしてあるページもあるのであくまでも参考までに。
私がもう少し若ければきっと真似してた
読んでいて素直にわくわくした小説をいくつか。物語の設定であったり、流れであったり。
私がもう少し若ければきっと拗らせて黒歴史たり得ていた作品たち。
意図したわけではないですが、講談社タイガ作品ばかりになってしまいました……。
『アンデッドガール・マーダーファルス』 青崎有吾
『アンデッドガール・マーダーファルス 1』 - ゆうべによんだ。
怪異にまつわりミステリ。
例えば不死のドラキュラ殺しとか。
私がもう少し若ければきっと怪異探しの旅に出てた。
『雨の日も神様と相撲を』 城平京
カエルが喋り相撲を取るというシュールさに、きっと著者は意図していないであろう部分でげらげら笑ってしまった小説。
ほんとはほんのりミステリ要素ありの青春小説です。
私がもう少し若ければきっと道ゆくカエルに話しかけるか、相撲習い始めてた。
『インスタント・マギ』 青木潤太郎
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展開がところどころバイオレンスなものの、やっぱり魔法を駆使して戦うのはかっこよい。
簡易的な魔法のインスタント・マギの設定もすごく心をくすぐる。
私がもう少し若ければきっとスマートフォンで適当な動画見つめて万能感得てた。
『先生、大事なものが盗まれました』 北山猛邦
何が盗まれたのかわからない、という少しファンタジックな要素も入った新しいミステリ。
何より怪盗小道具的な小物にとてつもなく心がときめく。
私がもう少し若ければ身近なあらゆる不幸の原因をいろいろと盗まれたせいということにしてた。
あとは野となれ恋愛脳
こうやって振り返って見てみるとあんまり恋愛小説を読んでないみたいです。
やはりと言うか、私の挙げる小説は、どちらかというと甘くないものばかり。
恋愛小説とひと口に言っても、軽いものから重いもの、甘いものから苦いものまでそれぞれ。私はたまらなくすきなのですが、以下の小説にしっくり来なくても責任は取りませんよ、あとは野となれ山となれ。
『昨日の君は、僕だけの君だった』 藤石波矢
彼女をシェアするという歪な関係を書いた物語。
そういえば、今年の夏に舞台化も決まったみたいですね。
舞台化のお知らせのページをのぞいてみたのですが「胸キュン」の文字に思わず意地の悪い笑みが漏れてしまう。
胸キュンだなんて、そんなふわふわとした物語を想像して軽い気持ちで手に取ったら痛い目にあいそう......。
少しずつパワーバランスが変わっていく人間関係を見ているのは辛いけれど、それが本人たちのためなのかな、なんて、私にとって、苦くて切ない恋愛小説。
『明日、今日の君に逢えなくても』 弥生志郎
願いを主人格に託して夏を生き抜く別人格の少女たちの、そして怖がりながらも手を伸ばす主人格の少女の物語。
どんな思いで別人格の少女たちは消えてゆくのだろう、と思うととてもやるせない。
イラストの少女の描き分けも合わせてお気に入り。
『この恋と、その未来。』シリーズ 森橋ビンゴ
『この恋と、その未来。 ー一年目 春ー』 - ゆうべによんだ。
GID(性同一性障害)を扱った恋愛小説。ライトノベルレーベルだからって、軽い気持ちで読んだらきっと痛い目を見る。
登場人物の誰もがただ「好き」という感情を抱いているだけで、どんどん傷ついてゆく。
5巻にあたるこの巻で打ち切りで、話を小さくまとめてしまいたくなかった作者さんが体良く締めない形で終わってしまった作品。
是非、読んでみてほしい。
そして、
もう少し早く出会っていれば、手にしていれば打ち切りにならず最終巻も文庫として読めたかも知れないということにきっと打ちひしがれてしまうほど、よい作品だと、私は思います。
手元の色鉛筆にそっと一本足すような
あるいは血肉になるような、ビタミン補給できるような。
明日を生きていくのに少し心強く思えるような、優しい物語だったり成長の物語だったり。
『ルリユール』 村山早紀
ルリユールは、本をなおすお医者さん。
それぞれの思いの詰まった大切な本を、要望に沿って綺麗に直してゆく。
そのままにしておきたいところはそのままに。
好きな仕事に就けるのなら、なりたい職業のひとつ。
『翼を持つ少女』 山本弘
私をSF沼に引きずり込む諸悪のうちのひとつ。
本についてプレゼンテーションを行い、最後に得票数を競うビブリオバトルを通して文庫版の表紙にもなっている主要人物ふたりの成長物語。
作中に登場したSF作品はもちろんのこと、ウミウシの写真集を買ってしまおうか今も迷っている。
『羊と鋼の森』 宮下奈都
言わずと知れた本屋大賞作品。
主人公の青年のピアノの調律に向かう考えや心構えの変化が精緻に描かれていて、読んでいてとても心が満たされる。
こういう小さな積み重ねを着実にして、私も歳を経てゆきたい。
活版印刷を通して、文字の持つ温かさや広がりや可能性を再認識した、今すぐ誰かに言葉を贈りたくなる優しい雰囲気の作品。
活版印刷は、文字を、刻む。
私も特別なレターセットで誰かに手紙を書いてみたい。
夜に揺られて酔いながら読むのがよく似合う
あるいは心を揺さぶる本。
相手のことを気にせず、好きな本を教えて、と言われたらきっとこの作品を挙げてしまう。
きっと、好き、というより心に残る、と言った方が近い。
サーカスにて演目を続ける少女たちの物語。
頑なにもボロボロになろうとも、観客が求める、私の中の理想の、少女であり続けようとする物語。
紅玉いづきさん書く少女たちが愛おしくて涙がこぼれそうになる。
『終わる世界のアルバム』 杉井光
最後には誰の記憶にも記録媒体も残らなくなってしまう世界の物語。
主人公の少年だけがカメラを使って、人々のいなくなってしまった後も記憶に残すことができる。
作中の「大丈夫」の言葉の使われ方が私の心に強く残っている。
小説を書くことの生々しい苦しみが詰まった作品。
だからこそ救いのある結末にすごく胸が温かくなる。
趣味でもなんでも何かたまらなくすきなことがあるあなたへ。
小説以外のあれやこれ
普段は小説の感想しか記事にしていませが、小説以外も少しですが読むんですよ。
詩集だったり漫画だったり。基本的には小説よりももっと原初的な好奇心で手に取ってしまうことが多いので、はっきり言って小説以上に罪深い本たち。
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』 最果タヒ
私のすきな、最果タヒさんの詩集。
一度だけ『空が分裂する』(新潮文庫nex)の感想記事を書いたことがある気がします。
死とか愛とか夢とかかわいいとか好きとか嫌いとかぼくとかきみとか。
手に収まるような小さなカメラでいちばんきれいに見える角度から目の前のものを切り取って、色とか光とか加えたんだからそれはもちろんきれいだよ、みたいな詩集。
詩の読み方なんてひとそれぞれだけれど、この詩集に出てくる「ぼく」は私で「きみ」は私のすきな不特定な誰かで、そんな誰かを頭の中で探しながら読んでしまう。
こればっかりは、店頭で手に取ってみて、としか言いようがないのです。
わたしはたまらなく、すきです。
『翻訳できない世界のことば』 エラ・フランシス・サンダース
少し話題になっていたので気になって手に取ってみました。
ひとことでは言い表すことのできないその言語独特の表現が集められ、言葉とともにイラストが添えられています。
原作者が海外の方、ということで日本語もいくつか選ばれています。
マレー語の「バナナを食べるときの所要時間。」とかドイツ語の「直訳すると『龍のえさ』。夫が、悪いふるまいを妻に許してもらうため贈るプレゼント。」あたりが面白くてすき。
もちろん、素敵な言葉もたくさんあるので、ふとした時に手に取ってぱらぱらと眺めたい。
実は『翼を持つ少女』のSF熱にあてられて、とりあえず入り口に、と手に取った漫画。
本を読まずに読んだつもりになりたい少女をめぐるコメディータッチな物語。
内容もよく知らないのに名言っぽいものを取り出しては、したり顔で乱用する次第。
現在出ている2巻まで読んだのですが、主人公の少女の言動に思わず納得してしまいかける部分も多々あってなかなか罪深い作品である。
『フェルマーの最終定理』を読んでいたド嬢が、既に読んだ友人の男の子に対して「待って! ネタバレしないで!」と言ったセリフに対す男の子の返しがすごくツボ。
「ネタバレもクソもねえよ 最終定理が証明されんだよ」
そりゃ、そうだ。
どうやらアニメ化も決まったみたいでびっくり。
高校卒業後、大学へ進学せず西荻窪にあるアニメーション会社に就職した少女の物語。
店頭で見かけて気になって手に取った漫画なのですが、これがすごくよい漫画で。
主人公含め、給料も決して良いわけではなく、辞めてしまう人が少なくない程過酷なアニメーション業界ではたらく人たちの仕事に対する執念だったり憧れだったりいろんな思いが色濃く描かれている。もちろんその思いは年齢や立場によって様々で。
そんないろいろな眼差しがこれからどのように作用しあっていくのか、とても楽しみな作品。
先にあげた相沢沙呼さんの『小説の神様』やアニメの『SHIROBAKO』がすきな人はきっと気に入るはず。
下半期にはどんな出会いが待っているのか、すごく楽しみ。