ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『終わる世界のアルバム』

『終わる世界のアルバム』  杉井光

終わる世界のアルバム (メディアワークス文庫)


当ブログへのコメントにてお勧めしていただいた作品。
……びっくりするくらい好みどんぴしゃでこわいくらいでした。

唐突に人間の存在や、その人にまつわる痕跡や記憶がすべて消えてしまう世界のお話。
そんな世界の中で、消えてしまった人のことを覚えている事ができる主人公の少年。
人々が次々に消えてしまうことに際し、悲観に暮れることなく世界は通常通り回り続けている中、語り手である主人公の目を通すとどこか静かで退廃的に見える。
人の死による悲しみが消えて、むしろどこか変に明るい世界で、行き先も知らずひたひたと朝靄の中を歩いているような。


ニコンUの銀塩フィルムに収め、その写真に忘れないようにその人の名前を書くことで、敢えて他人との距離を一定に保ちながら主人公の少年は生きてきた。
悲しみから目を反らすように、この人がいつ消えても何でもないよと装えるよう事前に準備をしておくかのように。

そんな折、1人の少女との出会いをきっかけに大切に守っていた他人との距離感が大きくずれていってしまう。

この少女とのやり取りがたまらなくすき。

「だってあなたは、たとえばわたしが消えちゃっても、大丈夫、大丈夫、そんなに哀しむような相手じゃないから、って言い聞かせて、写真に名前書いてファイルに押し込むんでしょ」
p.168

どこか自分自身で醒めていることを自覚しながらも、いざとなったら本当はとてつもなく弱いやつなんだって気付かされる場面がとても印象に残っています。
本当は醒めているんじゃなくて、周りに対してそういう態度を取っていただけなんだって。
ひとことで言ってしまえば、切ない、のだけれど、
その、必死に守っていた何かがさらさらと自分の力の及ばないところで流れていく感じがたまらない。

「わたしがつらいのは、あなたがいつまでも憶えてるかもしれないってことだけ。わたしが消えた後も、大丈夫、大丈夫、なんて自分に必死に嘘つきながらずっとずっと引きずっていく。そんなのは、ぜったいにいやだった」
p.240

その少女ははじめ、少年が傷付くことのないように真実から遠ざけるよう、ぶっきらぼうに接していたのに、かえってその態度が少年を惹きつけてしまう。
そして、最後にはそれらがすべて少年に対する優しさであるとわかった時、「ああ、この本読むことができて良かったな」と心から思いました。
それくらいに、この、少女が少年を思う気持ちがとても愛おしい。


意識せずに心に残っている2箇所の台詞を引用させていただいたのですが、どちらにも「大丈夫、大丈夫、」という言葉が入っていてどきりとする。
自分に言い聞かせる大丈夫、と、誰かからもらう大丈夫、の色や温度ってこんなにも違うのだと。
きっと、そんな風に「大丈夫」という言葉を使う少年を見ていたくなかったのだな、と。