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ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『君に出会えた4%の奇跡』

『君に出会えた4%の奇跡』 広瀬未衣

君に出会えた4%の奇跡 (双葉文庫)

 

※ネタバレを含んでいます。未読の方はご注意ください。

 

 

 

あらすじ

結婚式を間近に控え、数年ぶりに京都に帰った灯里は、自宅で昔の日記帳を見つける。その日記には、虫に食われたように、不自然に1人の名前が抜け落ちていた。なんとか手がかりを探そうと、祇園祭で作った提灯に「コウ」という名を見つけるも、どうにもコウのことを思い出せずにいた。

ひと月に2回見ることのできる満月をブルームーンと言い、そんな満月の日には奇跡が起きるという。

そんな噂話に導かれるようにして、灯里は少しずつ17歳の7月にあった出来事を少しずつ思い出してゆく。

最後に明かされるのは、不思議な世界の構造と、ちょっとした素敵な奇跡。

 

 

随所に溢れる京都の魅力

灯里が夢に見る形で、過去のコウとのやり取りを思いだしていくのですが、京都の観光名所や町並みが丁寧に描かれていました。

実際に京都に足を運んだ回数よりも、物語の中で触れた回数の方が圧倒的に多くて、私の頭の中で京都は虚実入り混じった「素敵」で溢れた街になってしまっています。

そんな私の空想架空都市「キョート」にまたひとつ、いろどりが増えました。

氷の器で食べるかき氷......しぬまでにたべたい。

(つい先日の『天使は奇跡を希う』の感想でも同じようなこと言ってる......)

 

またコウに対して仄かな恋心を抱く灯里の心情と舞台装置としての美御前社の美容水の組み合わせがぴったりで、コウに見合うくらい「美人」になりたいと願う灯里の健気さが一層際立ってました。

さらに特筆すべきは、そんなことを気にする灯里に対してコウがかけた言葉。灯里の何もかもを肯定するような言葉。

私も誰かを褒めることがあれば、こういう風に褒めてあげたいとふと、思う。人や町並みに守られて、大切にされて、いっぱいの愛を受け取ってきた証なんだねって。

それが気取りすぎてないように響くのは、コウが真摯に目の前の灯里や世界と向き合っていたからなのだと思います。

 

 

実在世界と私たちが感知している世界

灯里の父が物理学者ということもあり、時折世界の見え方が物理学的に語られる場面がありました。

その中で印象に残っているのは、レイリー反射による空の青の話。

本来、波長の違いから青色よりも紫色が空が広がっているのに、人の目には青色の方が映りやすいため、青く見えるという話。紫色を知覚しやすい人には紫がかって見えるという話。

こういう話を耳にするたびに、途方もない未来を想像して眠れなくなってしまう小学生のような気持ちになる。本当の世界ってなんなのだろう、と。

(そうして結局、どうしようもなくて、自分の見えるように、思うように受け入れてしまえばいいやという結論に至るのだけれど)

 

それでも、結婚間近にコウのことを思い出した灯里は、何に価値を見出すのだろう、と考えたら少しだけそわそわとした。

コウは誰の記憶にも残っていない存在で、その思い出をひとりで抱えて、目の前の現実を生きていくしかないんだよ、と言われて、「確かにそうだね」なんてすぐに受け入れることができるか、なんて。

 

 

 

 

最後に明かされる世界のひみつ

文庫あらすじにあった「もしこちらの世界にもう一人の僕がいたら、必ず君を見つけるよ」という台詞から、既にパラレルワールドものの匂いを感じていたので、コウが別世界の人間だと明かされた時には大して驚きはありませんでした。

ブルームーンの力を借りて綺麗な世界を見てみたかったんだ、そうしているうちに灯里のことを好きになった、というコウの台詞に思わず、細田守監督のアニメーション映画の「時をかける少女」みたいだと思う。

(念のため注釈を入れておくけれど、~みたいだ、って言っても。パクリだとか類似品だとかそういうことを言いたいのではなくて、私のアンテナにはそういう引っかかり方をしたのだという喜びを書き留めておきたいのです)

 

宇宙スケールで見れば確率的には、自分のコピーのような人がいるという話。その話と「もしこちらの世界にもう一人の僕がいたら、必ず君を見つけるよ」という台詞が素敵な結末に繋がるとは思ってもいませんでした。

コウと婚約者はもちろん別人なのだけれど、見つけるよ、という言葉がこういう形で果たされるのは、なんだかとってもプラトニック。

コウと婚約者はそういえば、(当たり前かもしれないけれど)年齢も同じなのでは?? ということに最後の最後で思い当たる。

 

多分、この先、また灯里はコウのことを忘れてしまうかもしれないけれど、それでいい、と私は思う。

忘れてしまったとしても、あの日の出来事が完全になかった、ということはないのだから、灯里らしく、灯里の思う目の前の好きなものを思いっきり愛してしまえばいいよ、と思う。

『そして、アリスはいなくなった』

『そして、アリスはいなくなった』 ひずき優

そして、アリスはいなくなった (集英社オレンジ文庫)

 

※当感想記事はネタバレを含んでいます。未読の方はご注意ください。

 

織川制吾さんの『先生、原稿まだですか!』を手に取る際に、同じく集英社オレンジ文庫の新刊として面陳されているのが目に入ったのがきっかけで。

shiyunn.hatenablog.com

 

 

あらすじ

詳しいプロフィールは明かされることなく伝説的な存在となったネットアイドル、アリスは、ある日急に活動を辞めてしまう。

そんなアリスの未公開動画が高校のIT教室のパソコンに保存されているのをひとりの女生徒が発見する。

その動画をきっかけに、アリスの正体、解散の本当の理由が明かされていく。

アリス結成から解散に至るまでに隠された真実には、複数の人間の思いがやりきれない程に複雑に絡み合っていて――最後にはそれが原因で「彼女たち」は自分たちの居場所を失ってしまう。

 

 

崩れゆく彼女たちの居場所

「小鳥遊アリスはもういない。僕がこの手で葬ったから」

冒頭のアリス解散の発端となった原因を突き止めた場面でのこの歩の台詞に、思わずひやりとしてしまう。一体、どういうことだろう、と。

このあと時系列に沿って結成から解散までの経緯が明かされてゆく中で、この台詞の意味が分かる時をずっとそわそわと待ち続けていた。

 

有り体に言えば、4人の男女が恋愛感情を拗らせ、それ故、小さな綻びによって自らの居場所を粉砕してしまった物語。

じわじわと関係が崩れてゆくのを、どうしても目を離すことができなくて、思わず一気読みしてしまった。

なんでこんなに私を惹きつけたのだろう、と読み終わった後、ぼんやりと考えてみた。

こういう恋が拗れていくのが特別すきというわけでもないし、好きな人を巡る激情を傍から見ているのがすきというわけでもないし......。

多分、多角関係が描かれているだけなら、私は単純に対岸の火事を眺めるような気持ちであっさり消化してしまっていただろう。

私が惹かれた理由――それは、アリスの活動に関わる4人全員がアリスでいることに「都合のよさ」を見出していて、自身の本当の思いと向き合うのを諦めていたからなのだと思う。

そんな彼、彼女たちのやりきれなさに、心が柔く締められてしまったからなのだと。

なんていうか、そういう諦めの滲んだまなざしに弱いのです。

みのりの前向きな気持ちが裏目に出てしまうところも、

歩がみのりの一番にはなれないと頭では分かってるところも、

梨緒の歩に対する献身的な思いが決して実ることがないところも、

弾の友情を大事にしようとする気持ちが報われることがないところも。

 

 

 

アリスの役割

そんなアリスの解散を経て、精一杯傷ついたあとで、彼らは少しだけ大人になる。

最後にはどこか晴れ晴れとした彼らの顔が浮かんで見えそうなくらいだった。

 

アリスはここでおしまい。

物語の終盤にある、何でもないこの一文に、なんだかぱちん、と魔法がはじけたような、おとぎ話が終わりを迎えたような気持ちになる。

そこでようやく、アリスでいることは通過儀礼のようなものだったのかもしれない、と思うことができた。

いつかは、現実から目を逸らしてアリスとして活動するという庇護から卒業しなければならなかったのだと。

幼い子が、子供向け番組から卒業していくように、彼らにはただただ「やさしい」アリスの存在が必要だったし、最後には誰かによって壊される必要があったのだと思う。

痛々しい思いで読み進めていた私の彼らのこの先を案じる心配に似た思いも、いい意味で杞憂に変わる。

 

「アリスはここでおしまい。」

この一言で何もかもふわっと昇華されてゆくカタルシスは本当に、一連のアリスの顛末を通して彼らの感情を汲み取ってきたからこそ得られるものだと思う。

 

 

表紙イラストに惹かれたその理由は

ここからは完全に余談。

ここ最近は、手に取った小説のイラストレーターさんの名前も欠かさず確認するようにしていて、好みのイラストレーターさんは割かし記憶しておくようにしています。

今作品を担当されている佐原ミズさんの名前を見たとき、確かに見覚えはあるものの、どの作品で見たのかすぐには思い出せず、検索してみることに......。

 

 そうしてヒットしたのは、私の大好きな作品のひとつ。

新海誠監督の『ほしのこえ』のコミカライズ。

ほしのこえ (KCデラックス アフタヌーン)

ほしのこえ (KCデラックス アフタヌーン)

 

 ほしのこえに関してはもちろん原作であるアニメーションも観たし、ノベライズも読んだのですが、この漫画の描かれ方とか雰囲気がたまらなくすきで今でもたまに読み返します。

今までイラストレーターさんの名前としてインプットされてなかったので、脳内検索ですぐにヒットしなかったんですね。

こうして本を介して、色んな作品が繋がっていく瞬間が本当にたまらない。

 

 

 

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 12』

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 12』 大森藤ノ

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか12 (GA文庫)

 

 ※以下にネタバレを含んでいます。未読の方はご注意ください。

 

ダンまち」シリーズ12作目。

いきなりですが、この巻、ものすごく面白くて本当に一気読みでした......。『異端児』編が一段落して久しぶりにダンジョン探索回。

ダンジョンダンジョンしてるだけじゃなくて、色んなキャラクター達が熱い成長を遂げるし、新しいキャラクターも登場するし、引きも気になる形で終わってるし......かんぺき。

 

 

あらすじ

宿敵ミノタウロスとの死闘を経てレベル4にランクアップしたベルくん。

それに伴ってファミリアの等級も上がり、ギルドから周期的に遠征を義務付けられることに。

 仲の良いファミリアのメンバーにも協力してもらい、ダンジョンの「下層」到達を目標に探索に向かう一行。

そうして目的の階層までは、難なくたどり着けたものの、そこで待ち受けていたのは狡猾に冒険者を罠に嵌める『強化種』。

他のモンスターとは違う動きを見せる『強化種』を前に、ベルくんは仲間たちとはぐれ、パーティはたやすく壊滅状態に追い込まれてしまう。

 

ベルの心境の変化と成長

ランクアップにより、身体能力が向上しただけでなく、『異端児』を巡る一件を通して、精神的な成長を見せるベルくん。

「『偽善者』になるって、決めました」

というベルくんの言葉に思わずぐっとくる。

本当にこの巻のベルくん、情けなさのかけらもなくて、言葉や行動のひとつひとつに本当に胸が熱くなる。

パーティをベルくん自身が引っ張っていくのだという覚悟が随所に溢れている。

 

例えば、『強化種』に追い詰められ深手を追ってしまった千草を前に焦燥が滲み始めたパーティメンバーに対し、強気に発言を促す場面、本当にぞくっとしました。

「まだ、誰も死んでいない」

「!」

「 仲間みんながいます。 仲間みんなで考えれば、助けられる」

 自身の不安を押し殺して引っ張ろうとする姿も成長を感じるけれど、何より、いつだって仲間のことを信頼してるのが本当によい。

ベルくんは自身は完全無欠な存在でないことを自覚していて、切に仲間の力が必要だと感じている。

「下層」へ向かうに際し、レベル1のサポーターのリリは連れて行かない方がよいのではないか、という意見に対しての

「できるなら......みんなと一緒に、強くなりたい」

(略)

「 仲間ファミリアのみんなで、前に進みたい」

 という相変わらずなベルくんの台詞にはもう、言葉が出ない......。

お人好しだから、というだけでなく、きっと今までもこれからも仲間たち全員の力が必要だと感じているからこその台詞だと思うと。

 

 

覚醒する冒険者たち

そんなベルくんに引っ張られるような形で、他の仲間たちも覚悟を決める。

  ミコトの居合や、春姫の複数を対象にすることが可能になった階位昇華魔法はもちろんですが、なんといっても今回の一番の成長を見せたのはリリ。

彼女の頭脳を生かして、指揮官のポジションにつくのですが、奇しくも以前に求婚されたフィンを引き合いに出されていて思わずにやっとしてしまう。

そんなリリが苦渋の決断を下す場面が本当に今回のお話の中でいちばん印象に残っています。

圧倒的な力を見せる『強化種』を前になすすべなく、他の冒険者の「囮になるから、ヘスティア・ファミリアは生き残って、このことを地上に伝えてくれ」という提案を前にした時の葛藤。

「あの人なら、見捨てない!」

脳裏に蘇るのはとある迷宮の光景だった。

恐ろしい巨大な蟻の大群に取り囲まれるリリを助けた、とても熱くて美しい炎の雷と、差し伸べられた少年の手だった。

「あの人は、私を見捨てなかった!」

目じりから涙の欠片を飛ばしながら吠え続ける。

 

 

リリが本当になりたいのは、追いかけたいのは、自分を救ってくれたあの背中だ。

汚泥にまみれた自分を見捨てなかった、あの優しい手だ。

「だから、私も......! リリも変わるんだって‼」

 もう、この場面本当にすきすぎて、なんなら見開き1ページまるっと引用したいくらい。

こうして読み返して、引用のために文字打ち込んでるだけでも思わず目頭が熱くなります......。

ベルくんの信頼をただただ受けるだけではなくて、ちゃんとそれに答えようとするのがよい。

とりわけ、リリは他のキャラクターに比べコンプレックスを抱えているだけに、彼女の覚悟の言葉に本当に「そうだ! 行け!」と幼子が素直にヒーロー、ヒロインを応援するような気持ちになる。

 

そうして、1度ははぐれてしまったものの、ピンチの場面で仲間と再び合流する英雄、もといベル。

新たな境地にたどり着いたベルくんが『強化種』に繰り出すのは、自身がミノタウロスを倒すべく編み出した新しい技。

ファイアボルトをヘスティア・ナイフに放つと共にその状態で、炎とナイフにチャージをかけた、すべてを灰燼に帰す炎熱の刃。

かっこいい......。 

 

 

新たなハーレム要因『異端児』と気になる幕引き

水流のダンジョンで仲間とはぐれてしまったベルくんを仲間と合流できたのは、新たな『異端児』マーメイドのマリィのおかげ。

天真爛漫な性格で喜びのまま身体を寄せるマリィに思わずどぎまぎしてしまうベルくんの様子に「あ、これ、いつもの情けない方のベルくんだ」と内心微笑む私。 

『異端児』の結末がどこに向かうのか、今後気になっている点のひとつです。

 

そして、もうひとつ気になるのは今回の幕引き。

リヴィラの街の外で殺人が起こり、犯人はどうやら賞金首の【疾風】だという。 

リューさん......?

事情があれば彼女ならやりかねないという気持ちと、人違いではないかという気持ち、両方あって、とりあえず経緯が分からない以上は、本当になんとも言えない......。

本編と関連するかわからないけれど、これはリュー外伝も読まきゃいけないやつだ......ソード・オラトリアもまだ積んでるけれど......。

 

 

 

【『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』シリーズの感想はこちら。】

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 11』

 
※既刊含め内容に触れている部分があります。ネタバレを避けたい方や未読の方はご注意ください。
 
 
 
 
ダンまち」シリーズ11作目。
人語を操るモンスター『異端児』を巡る物語も、今回でようやく一段落。
 
前回、『異端児』たちを庇い、事情を知らない人々からの信用を失ったベルくんが立ち上がるまでの物語。
私の中では、ここまでのお話の中でいちばんキツい出来事なのではないかと思っていたのですが、目次の『七章  英雄回帰』の文字に思わずぞくっとしてしまいました。
今までにもベルくんの優しさが遺憾無く発揮される場面は多々あり、その結果いつもベルくんは信頼を得て、仲間も増えてきたのに、今回に限ってはどんどんと孤立してゆく。
あろうことか、ベルくんが傷つけたくなかった人たちまで傷ついてゆく。
 
どこか保護者のような気持ちでベルくんたちを見ている私は、本当にどうなっめしまうのか気が気でない……。
 
 
 
 
そうして立場の違いから、ロキ・ファミリアと対峙することになるのですが、圧倒的戦力不足ながら魔法等駆使して対等に渡り合おうとする描写に何回息を呑んだかわからないです。
それと同時に気が付けば、ちゃんとベルくんの周りには、ベルくんを助けてくれる人がこんなにもいる、ということに小さな感動。
上層のモンスターを狩ることができたことをヘスティア様に嬉しそうに報告していた1巻冒頭のベルくんに懐かしさを覚える。
2人だけで始まった物語だけれど、他の人やファミリアどころかオラリオすら巻き込む渦中の人になろうとは。
 
 
 
 
 
そうして、英雄回帰に至るまで。
再びベルくんの前にミノタウロスが強力になって立ちはだかることになるとは。
ミノタウロスも再戦を渇望していたとなると、もはやこの関係性はただの冒険者とモンスターという構図には当てはまらない。これは完全に宿敵と呼ぶにふさわしい。
圧倒的な力の前に、善戦するも苦杯を喫することになってしまう。
思い返せば本当にベルくんの転機にはいつもミノタウロスが関わっている。(ある種、大体がフレイヤが出したちょっかいとも言える)
今まで事前に圧倒的な力量差を感じて、結果負けてしまうことはあっても(ラフなので言えばヴァレン某との特訓とか)、全身全霊をかけて出し尽くして負けたのは初めてなのではないでしょうか、
負けてはならない、と思いながらも相手には及ばないような戦い。
次巻以降、この戦いを経たベルくんがどのように成長してゆくのか、とても楽しみ。
 
 
楽しみと言えば、そんなミノタウロスとの決着はもちろん、『異端児』にまつわる問題が完全に解決したわけではないので、今後どのように物語を動かしてゆくことになるのか、とても気になるところ。
 
 
 
 
 
 

『先生、原稿まだですか! 新米編集者、ベストセラーを作る』

『先生、原稿まだですか! 新米編集者、ベストセラーを作る』 織川制吾

先生、原稿まだですか!  新米編集者、ベストセラーを作る (集英社オレンジ文庫)

 

 

以前に今作と同じく集英社オレンジ文庫から刊行されている織川制吾さんの『ストロベリアル・デリバリー』心撃ち抜かれ、今度は本にまつわる物語が刊行されるということで、これは読まねば、と。

 

 

『ストロベリアル・デリバリー』 - ゆうべによんだ。

 

 

決して大きくはないけれど兼ねてから夢だった編集者として、出版社に入社することができた平摘栞。

フィクションに価値を見出さず、早く結婚して身を固めるよう口うるさい父の反対を押し切り大見得を切って東京に出てきた手前、父を説得するためにも自身の手で100万部を超える作品――ミリオンセラーを生み出すことを目標に掲げている。

 

 

昨今のこういった出版業界ものの小説はどれも、現代の状況を反映してか、全盛期に比べて失速した様子が描かれているように思います。

作中、近年刊行数は増え薄利多売にシフトしつつあり、いい本もたくさんあるのに埋もれてしまうと、栞とある作家が話す場面がありました。

「口コミを費用のかからない、都合のいい魔法だと思っちゃいけない」

栞に対してのこの言葉になんだか私も思わずはっとする。

いち読者でしかないけれど、なんとなく「いい本」は勝手に誰かのもとに時間とともに広がっていくだろう、というような心づもりでいた。

口コミで広がる、というのも結局運の要素が大きいのだと、改めて思い知る。

 

「それでも......腐らずにいい本を作り続けるしかないと思います。それに、いい本は人に届きます」

そんな中、この栞の真っ直ぐな台詞はとても心強い。

編集として栞は、いい本を作り続けるしかない、という。

結局は作家、編集、取次、書店員、読者、立場は違えど、「いい本」をできるだけ多くの人に届けたいのは同じなのだと思います。

読者として私ができることのひとつは、多分こうして、「なんとなくいいな」と思った本やものを、ちゃんと私なりに掬いあげることなのだと、信じている。たとえそれがか細いものだとしても。

 

 

 

またこの「いい本」に関して、別の場面で「一冊でも多く売れればいい本なのか」と栞が問いかけられる場面がある。

今回、栞はひとつの作品を巡って、センセーショナルな結末を取るか、その作家らしさを前面に押し出した結末を取るか編集として決断を迫られる。

 

私も書店に何度か足を運んでいて、確かに「意外な結末」を迎える物語は持て囃されやすい、と感じることがある。

その他にも、似たような題材を扱ったり、表紙だったり、タイトルだったり。

読者の私としては、その中からただ気になったものをピックアップしていくだけなので、特段、「売れ筋」に寄ってしまうことに否定的な気分はないのだけれど、きっと作家や編集にとっては私が思う以上に切実な問題なのだと思う。まさに死活問題なのだろう、作家が飢えるか、出版社の経営が傾くか。

ついさっき、否定的ではない、とは言ったけれど、決して妥協はしてほしくないな、と思う。

もちろん、多少折り合いをつける部分はあるだろうけれど、作家も編集も「これしかない」と思ったものを、私もこれしかないのだ、と胸を張って言いたい。

 

 

 

......と、やや堅いお話なのだろうか、と思わせるような、ここまでの感想文ですが、主人公の栞ちゃんのガッツは尋常じゃないし、彼女を振り回すことになる御陵或という作家はあまりにも曲者すぎる。コミカルな要素もたっぷりです。

顔合わせの際に、ムカデのかき揚げを出されてもなお、作品を書いてほしいと頼み続ける栞ちゃんの根性たるや......。

 

それから酒癖悪いながらも、ちゃんとそれを好機に変えるあたり、日頃の雑草根性が生きてる感じする......。

なかなか思うように成果に繋がらず「残念さ」が垣間見えることも多々あって、特に喧嘩の果て、父に締め落とされて気絶するエピソードは、数ある残念エピソードの中で群を抜いていると思う。

 それでも、多分、何事にも一生懸命だから、彼女の周りには人が集まるし、色んな人に好かれるのだと思う。

 

 

 

 

十分に続編の余地を残した終わり方をしたので、続きが刊行されることがあればぜひ読み続けたい。

 

 

 

『天使は奇跡を希う』

『天使は奇跡を希う』 七月隆文

天使は奇跡を希う (文春文庫)

 

ぼくは明日、昨日のきみとデートする』で著名の七月隆文さんの作品。

表紙イラストを担当されているのは、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『君の名は。』のキャラクターデザインなどを手がけている田中将賀さん。

主人公の新海、という名字に思わず「新海誠監督のオマージュかな?」と。

 

 

今治の高校に通う新海良史のクラスにある日、優花という名の少女が転校してきた。

そんな彼女の背中には真っ白な翼が。しかし、その翼が見えているのはどうやらクラスで良史だけらしい。

彼女の正体を知ってしまった良史は、天国に返してほしいという彼女の願いを叶える手伝いをすることになる。

 

 

 

 

※以下、ネタバレあり。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

物語の前半は、優花に良史が振り回される形でふたりは地元を巡ることに。

過去に七月隆文さんの作品はいくつか読んでいて、七月さんの作品のことだからきっとこの何気ない明るいできごとが後々重要な意味を持ってくるに違いない......と覚悟しながら読んでいたのですが、案の定。

なるほど......今回はこうなったか......と感嘆。

読みながら、きっと良史にとって優花は旧知の仲だったってパターンだな??? と根拠もなく予想していたのですが、まさか良史が既に亡くなっていて、彼を生き返らせるために優花が制約の中で精一杯できることをしている、とは思いませんでした。

 

彼女が錠の代わりに手でハートを作ってみたり、タオル工場で涙したり、真実が明かされてから本当の意味が分かる行動がいくつかあるのですが、その中でも、ゲート前で職員さんに過去に似たようなことをした人がいないか必死に問いかけていたことがいちばん印象に残っています。

どれもこれも必死だったのは彼女自身の思い出のためではなくて、すべては良史のためだったんですね。

 

 

 

そして彼らの恋について。

成美と優花の関係が拗れてしまったことも含めて、諸々、誰が悪いというわけではなく、少しずつ運が悪かった、としか言いようがない、と私は思った。

もちろん、そんなひとことで片付くようなことではないけれど、普通だったら時が解決してくれるような些細なつまずきも、良史の転校や死によってその機会を完全に失ってしまった。

少し素直になれなかったことの対価にしてはあまりにも不幸だ。

成美は良史に告白する時に優花についての嘘を吐くべきではなかったし、

優花は自分の気持ちを偽り続けるべきではなかったし、

良史は安易に告白を受け入れるべきではなかった。

彼らの嘘は、計算づくの嘘なんかではなくて、自分に自信がなかったからつい、口から出てしまった嘘だ。

もちろん、物語の上では「するべきではなかった」なんて彼らの行動を否定できるけれど、現実での私は、多分他の人がそうしているのと同じくらいには、これと似たような嘘をいくつも吐いてきたし、色々と誤魔化してきた。別に恋沙汰に限らず。

 

 

正直、結末を迎える頃には何らかの形で幼馴染4人の誰かが欠けてしまうのではないかと、大団円を願いながらも心の片隅でどきどきどしていた。

それでも最後には彼らの元には何でもない日常が戻ってきて本当に良かったと思う。

今回の良史を生き返らせるに当たって、自分が決断して行動を起こしたということが、巡り巡って、胸を張って生きるための糧になればよいな、と思う。

できることなら、もう二度とあんな嘘を吐かなくて済むように。

 

 

 

 

 

 

最後に。

読みながらにして薄々自覚はしていたけれど、読み終わってなおさら今治に行ってみたくなるやつだ!

特に作中に登場したかき氷屋さん、簡単に検索してみたらどうやら実在するようでぜひとも行ってみたい......。

かき氷フリーク、というわけではないけれど、なんだかかき氷屋さんに対しては他のスイーツ以上に熱意を注いでしまう。

なんていうか、ソーダ水よりも瓶ラムネの方が少し特別に感じてしまうのに似ている。

四国自体が私にとって未踏の地なので、今治のかき氷屋さん含め、観光地諸々、しぬまでに行きたい。

 

『アンデッドガール・マーダーファルス 2』

『アンデッドガール・マーダーファルス 2』 青崎有吾

アンデッドガール・マーダーファルス 2 (講談社タイガ)

 

講談社タイガより刊行されている、シリーズ2作目。

青崎有吾さんと言えば、『体育館の殺人』に始まるミステリシリーズも評判ですが(まだ読めてない......)、今回は完全にバトルものだよ、これは!

あらゆるロマンがこれでもかってくらいに詰め込まれてて、設定、あらすじ聞くだけで心躍る......。

 

 

 

以下、ネタバレを含むのでご注意ください。

 

 

 

今作主人公たちとホームズとルパンが、(ジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』の)フォッグ邸のダイヤを巡って火花を散らす。

オペラ座の怪人』のファントムとルパンが手を組むとは思ってなかったんですが、確かに言われてみれば案外しっくりくるかもしれないですね、

そこにロンドンの保険機構ロイズの屈強な人たちが混ざって、バトルロワイヤル状態。

おまけに最後には、漁夫の利を狙ってモリアーティ教授が人造人間やヴァンパイアを引き連れてくるものだから、お祭り状態。

 

 

ここまで挙げたキャラクターが一堂に会しながらも、ごちゃごちゃしすぎていないところが本当にすごい。何よりどのキャラクターにもちゃんと見せ場があるし。

ホームズシリーズとか読んだことないのに、ちゃんとホームズはなんとなくホームズっぽい、ってところも。(この発言、ややもすると多方面から怒られそう......)

 

 

後半の大乱闘シーンでは、バトル漫画の演出ではよく見かけるような、複数の組織が至る所で戦いをしている様子がめくるめく場面転換しながら描かれていました。一方、彼は......みたいな。

 まさにそれをそのまんま小説にした、という感じで戦況が変わりゆくにつれ共闘したり、対決中に起こったある出来事が他の戦っている人たちにも影響を与えたり。

 

 

コミカライズ版も読んでいるのですが、絵が本当に緻密で原作のひょうきんな部分だったりどこかおどろおどろしい部分だったり、あますことなく表現されているので是非......。

特に今回のお話とかそれこそめちゃくちゃ漫画映えすると思うので、マンガではどんなふうに動きが描かれるのが、ほんとに楽しみ。

アンデッドガール・マーダーファルス(1) (シリウスKC)

アンデッドガール・マーダーファルス(1) (シリウスKC)

 

 

 

 

バトル要素だけじゃなくて、ちゃんとミステリ要素や今までやこれからのお話に連なりそうな情報もいくつかありました。

例えば、ダイヤを巡ってのホームズとルパンの頭脳戦は本当にどちらもカッコよくてため息。ちなみに私はどちらかと言えば、怪盗のルパンの方によりロマンを感じます。

名探偵コナンで言うところの怪盗キッドに対するロマンと同じです。

なんていうか、作中でも言われてたけれど、犯行そのものが芸術だよね????

 

 

それから、鴉夜の身体にまつわる経緯だったり、津軽が半人半鬼になった理由だったり、モリアーティ教授の目的だったり。

 

しかし、1巻の時は怪異ものなのかしら、とも思っていたのですが、実は虚実混ざった有名キャラクター勢ぞろいオールスター物語だったとは......。

次はとりあえず人狼が出てきそうだということは今回のお話の流れから想像に難くないけれど、その他にどんなキャラクターが出てくるのか今からすごくわくわくします。

今後もミステリ要素もありながら、バトル展開も望めそうなので続きが本当に楽しみ。

 

 

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