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ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

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『装丁室のおしごと。』

感想 メディアワークス文庫

『装丁室のおしごと。~本の表情つくりませんか?~』 範乃秋春

装幀室のおしごと。 ~本の表情つくりませんか?~ (メディアワークス文庫)

 

タイトル通り、帯を含めた本の装幀デザインを扱う出版社の装丁室の物語。

今作の表紙にも遊び心たっぷり。

こういう本にまつわる物語見つけるとすぐに飛びついてしまう......。

特に製本とか表紙とかそういうものに、本当に心惹かれます。

大体、『ルリユールおじさん』のせい。

 

ルリユールおじさん (講談社の創作絵本)

ルリユールおじさん (講談社の創作絵本)

 

 

 

今作には、仕事に対するスタンスが正反対の2人が登場する。

装幀は本の内容を体現する顔なのだと、物語を読み込んでデザインする本河わらべ。

一方、売れるのが第一、と原稿を全く読まない巻島宗也。

出版社同士の合併を機に、仕事の進め方の認識を統一するために2人はペアで仕事をすることになる。

案の定、衝突することになるわらべと巻島。

巻島があまりにも物語をぞんざいに扱うものだから物語の登場人物ながら私もわらべと一緒に「なんなんだあの人は」と思ってしまう。

もちろん彼なりに過去の経験に基づいた考えがあってのことなのですが、「いや、もう少しやり方あるでしょうよ......」と。

 

 

それでも、本は売れなきゃ意味がない、という彼の主張もよくわかる。

作品が売れなければ、作家だって(最近は兼業作家が多いと聞くけれど)生活していくことはできない。

そもそも手に取ってもらえなければ読んでもらうこともできない。

少し前にもTwitter等々で、似た雰囲気のイラストやタイトルの小説が多いということに何人かの読書家の方や作家さんが難色を示しているのを見かけた記憶がある。

もちろん「作品だけ」のことを思えば、その作品の色をふんだんに醸したデザインがいいに決まってる。作家さんが自身の命や生活を削って綴った物語は、唯一無二のものであるはずだから。

それでも、利益を生み出すための商品、という側面もある以上、理想だけ語ってはいられないのかもしれない。

それこそ、いち読者がどうこういうようなことではないのかもしれない。少しでも多くの人に読んでもらいたいと作家さん自身が思ったのならば、きっとそれはそれで正しいのだと思う。

 

どちらにせよ、装幀から汲み取ったイメージでぱぱっと手に取ってしまうことの多い私は、装幀家さんやイラストレーターさんにまんまとしてやられているのかもしれない。

 

 

 

今回の表紙だってイラストレーターのukiさんの名前から赤線がのびて、付箋の一部が左端に見切れているのが分かると思いますが、表紙をめくったところの見返しにもちゃんと印刷されているのです。実際に手に取らないと分からないところ、帯を外してみないと分からないところまで、色々な要素がぎゅっと詰まっているとなんだかわくわくします。実際に付箋に何が書かれているのか気になる方は是非書店へ!

 

 

 

物語の流れとしては、本当に色々な切り口でわらべなりに巻島なりに「よいデザインとは何か」を巡って話が進んでいくのですが、最後にはちょっとした事実が明かされてびっくり。

というか、わらべちゃんがそういうならいち読者の私としても巻島さんを認めないわけにはいかないじゃん。それってなんかずるいじゃん......? という感じで当初のぎくしゃくはどこへやら、ふんわりあたたかい結末を迎えます。

作中で、巻島さんになんとか本を読んでもらおうとあれこれ手を尽くすわらべちゃんが健気で健気で。

「狙った獲物は必ず沼に引きずり込む。読書沼という沼にね。だから、みんな彼女のことを河童と読んでいるそうだよ」p.160

(初版原文でも「読んでいるそうだよ」となっている。「呼んでいる」の誤植かしら)

とは、作中の登場人物の台詞。

 

気が付けば私も沼の住人になって早幾年。

積読本にあっぷあっぷしながらも、「まだよこせ、もっとよこせ」と本能が言う。

私ももっと周到に知人を沼に引きずり込めるなりたいものです。

 

『君は月夜に光り輝く』

感想 メディアワークス文庫

『君は月夜に光り輝く』 佐野徹夜

君は月夜に光り輝く (メディアワークス文庫)

 

 

loundrawさんのイラストがきれいな、第23回電撃小説大賞受賞作。

 

高校生になった主人公の少年は、岡田卓也は、「発光病」という病で入院中の少女、渡良瀬まみずと出会う。

発光病――月の光により体が淡く光り、死が近づくにつれ高度は増していくという。

あることをきっかけに少年はまみずに代わって「死ぬまでにしたいことリスト」の内容を実行していくことになる。

 

 

こういう「不治の病」系のお話、世の中にありふれているからこそ、作者の機微がちょっとした差になって現れるところがすき。

今回は何といっても、岡田くんの投げやりな人生観がとても印象に残っている。

女性関係にだらしない彼の恩人に代わって関係を清算しにファミレスへ行く、という場面にて。

「岡田くん、お願いがあるんだけど」

「なんですか」

「あなたにコーラぶっかけてもいい?」

「いいですよ」

p.102

このやり取りを読んで、思わずたまらないな、と思う。

こういう痛々しい登場人物に、つい目が離せなくなってしまう。

彼のどこか冷めたものの見方の根底には、姉の交通事故死があるのですが、生きるということ、死ぬということについてそれぞれの登場人物たちが様々な思いを抱いている。

そういう意味では、岡田くんの恩人が手あたり次第女の人と繋がろうとするのも、この世を儚んでいるからだ。

 

 

 

 

そんな岡田くんの死生観はどこか明るいまみずとやり取りを繰り返すうちに変化してゆく。

まみずだって、自らの境遇にほとんどを諦めてしまっている。

そうでなければ「死ぬまでにしたいことリスト」の実行を他人に託したりはしないはずだ。

 

 

私から見れば、岡田くんも、まみずも、「死ぬ」ということにしてお行儀良くありすぎたのだと思う。

実際に直視しようとすれば、周りの人を悲しませ疲弊させるだけだから、と。

だからなんだか分かったようなふりをして、「死なんてなんでもないよ」なんて態度を取る。

それでも、ふたりで「リスト」の内容をこなしていくうちに、生きるとか死ぬとかそういうものを前に大人ぶるより、もっと大事にしなくちゃならないことがあることに気が付く。

ふたりでこっそりと深夜の病院の屋上に上がって、望遠鏡で星を見る場面はとてもきれいだ。

夜とか雨とか、ひとけのないところで二人っきりで会話をするというシチュエーションに弱すぎる私。

バイオフォトン(biophoton)という現象は実際に存在するらしく、誰しも微弱に光を発しているという。あまりにも弱い光なので肉眼で見ることはできないみたい。ただ、細胞が傷つくほど強く光を発するのだという。例えば喫煙者の指先とか。

死に近づくほど光り輝くというのは、なんだか皮肉みたいだけれど、それはきっととても美しいのだろうな、と思う。

 

 

作品を通して「無」というのがとても象徴的で、死んだら後には何も残らない、だから生きてることに意味なんてない、というのが、立場は違えど、彼らの考えだった。

生きていて、例えば忘れてく自分が怖いんだ。君の笑い方を、声を、その激しい喜怒哀楽の表し方を、君の息の吸い方や吐き方のかわりに、英単語とか、くだらないクラスメイトの名前、新しい道順、そのうち名刺の渡し方なんかを覚えてく自分が怖いんだ。

 という悲痛な岡田くんの叫びは、私にもよくわかる。

大事だと思っていたことが無意識に消化されていってしまうことに、できることなら抗いたい。

それでも、生きていたい、とか生きていなくちゃならない、と思わせるような執着に似た何かがあるから、生きてゆけるのかな、と思う。

そんな何かを、岡田くんも、まみずも、手にしてゆく。

 

 

 

この作品を読む際には、あとがきも併せて是非とも読んでほしい。

当たり前だけれど、この物語で描かれていることが生とか死とか恋とか執着のすべてではない。

でも、決して間違ってはいないのだと思う。

自分の中でそういったぼんやりとしたものを少しでも形にしたくて、こういう物語をつい、手に取ってしまうのかもしれない。

 

 

 

『少年と少女と、 サクラダリセット6』

感想 角川文庫 河野裕

『少年と少女と、 サクラダリセット6』 河野裕

少年と少女と、 サクラダリセット6<サクラダリセット(新装版/角川文庫)>

 

 

新装版サクラダリセットシリーズ6作目。

シリーズ作品も残すところあと7巻を残すのみ、というところまで来るといよいよ大詰め、という気がしてきます。

今回の物語は最後の締めを迎えるための準備のようなお話、いわば前半。

過去に1度スニーカー文庫で読んでいるのものの、本棚から引っ張り出して読んでしまいそうなくらい.早く続きが読みたい.....。

 

 

これまでのお話やその他の河野裕さんの作品についての感想はこちら↓

河野裕 カテゴリーの記事一覧 - ゆうべによんだ。

 

 

※以下、だらだらと感想が続きます。内容に触れることもあるかと思いますので、未読の方はご注意ください。

 

 

色々と触れておきたいことがあるのですが......まずは。

わかりきってることでいちいち足を止めるから、進み出せなくなるんだ。

p.35

序盤に登場するこのフレーズ。初めてスニーカー文庫版を読んだ時に印象に残っている言葉のひとつです。そういう言葉が他にもいくつかあって、そういうものに出会う度に嬉し懐かしい気分になります。

 

それから。

一〇〇通りの言葉を考えて、一〇〇回、なにかが違うと思った。

あらゆる言葉が、なんだか場違いだ。

p.53

 という場面。『いなくなれ、群青』の七草も似ていたこと言ってたな、とふと思う。

百万通りの喜びを喜びと言う言葉で表して、百万通りの悲しみを悲しみという言葉で表して、どんな意味があるというのだろう? 

『いなくなれ、群青』

河野さんの作品をこうして1周ぐるり、とまわって、こういう言葉にできない感情をどうにか言葉に落とし込もうとすることの意味を考えるのがすきなのだ、と改めて自覚する。

それでも言葉で伝える方法しか知らなくて、適切な言葉をいつだって探している。

 

 

 

続いて、相麻菫。

やっぱり彼女がたまらなく好きだ。というよりあまりにも不器用で放っておけない。

彼女が2年前に死んでしまった意味をケイも知ることになるのですが、能力によって「蘇った」菫が不憫でならない。

死んでしまった理由をひた隠しにし続けていたのは、ケイと春埼とのまるで能力なんて関係ない普通の高校生みたいに幸せな時間を守りたかったから。

そう決めたのは死んでしまった菫なのに、蘇った菫も別人であるとは言え菫に他ならないので信条を曲げることなんてできない。そうしてすべてを丸投げにして、ケイのためだなんて都合のいい言葉に濁して死んでしまった菫が許せない、という。

ケイと菫の間に交わされる言葉は、ほとんどが信頼によって成り立っている。他の誰でもない、ケイの、そして菫の言葉だから素直に受け入れ従おうと思える。

「ずっと、貴方の幸せだけを、祈っているわ」

自分の名前を知らない彼女は、そう言った。

p.312

 この台詞に色々なものがぎゅっと詰まっていて、ほんとうにたまらない。

 

 

 

今回は、最終巻に向けての山場、ということもあって結末は考え得る限りでは絶望的だ。

浦地だって完全な悪、というわけではない。

能力をすべて消し去る、という方法でしか世界を愛せないのだ。

1代目魔女がケイ達に問いていた「石ころでも愛せるか」という質問も、ちゃんと物語があったことを、今になって知ることができる。

多分、浦地には言葉が足りなかったのだと思う。

回りくどくても無駄でも言葉をかけたりかけられたりするような時間や相手が。

 

 

 

そうして、最後の「――伝言が好きなの。」の回想にも思わず泣いてしまいそうになる。

 

 

 

最終巻の発売が本当に楽しみ。

『おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱』

感想 講談社タイガ

『おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱』 オキシタケヒコ

おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱 (講談社タイガ)

 

初めて読む、オキシタケヒコさんの作品。

もともとtoi8さんのイラストやネット上の評判で気になって同著の『筐底のエルピス』の1巻を大事に大事に積んであったのですが、もだもだしているうちに別の新シリーズが始まってしまうという恐ろしい事態に。

 

単行本を積んでるうちにいつの間にか文庫化されてしまうくらい恐ろしい。

おまけに、今回の『おそれミミズク』も評判がよさそうときたものだから、さあ大変。

Twitter講談社タイガのアカウントをフォローしていると、感想がちらほら流れてくるのですが、その大半が「怪談、ホラーかと思ったらSFだった!」と摩訶不思議なことを言うものだから、これは是非読んで確かめなくては、と。

 

結論。

土俗ホラーかと思ったら、SFだった!!

しかもお話としてもすごくよくできてる.....。

読書を好きになった頃に伊坂幸太郎さんの作品ざくざく読んでいたので、ちょっとやそっとの伏線じゃびくともしないからだになっていた私でも、すごいわくわくするくらい色んな出来事が密接に関わり合っていて......。

 

 

 

※以下、何がネタバレになるか分からないので、1周回って気にせず感想書いています。未読の方はご注意ください。

 

 

 

主人公の逸見瑞樹は、田舎の叔母の家で新聞配達をして居候として暮らしている。

そんな彼にはひとつ誰にも言えない秘密がある。

週末になると決まって自転車を走らせ山中の屋敷へ向かう。そこに設えられた座敷牢にはひとりの少女。ツナと名乗る少女に1週間で集めた怖い話を聞かせるというのが、瑞樹もといミミズクにとって10年続く習慣になっていた。

 

物語の前半はただただこの歪な関係がおどろおどろしい雰囲気で書かれていて、舞台が田舎ということもあって土俗ホラーなのかと思って読んでいました。

ところがミミズクが禁を破ってツナを救い出そうと心に決めたことをきっかけに物語の様子ががらり、と変わります。

怖い、どころか微笑ましい大団円を迎えるので、この雰囲気の変わりようもすごい。

 

読み進めていく中で、ひらがなだけで題された章がいくつかあって、内容もミミズクの見ている夢という曖昧なものだったのですが、後半になってようやく意味が分かります。

『うまれおちたるかうけうのひとつめざめたること』のタイトルを目にした時には、「かうけう」って何それ、と思っていたのですが今となってはちゃんと意味を持った言葉に。

 

 

数ある伏線(?)の中で1番体温上がったのは、瑞樹の夜目が効く設定が存分に生かされた場面、そしてミミズクという暗示が仄めかされる場面。

あんな序盤のパンク修理のエピソードが活かされて、瑞樹のあだ名、ひいてはタイトルにあるミミズクがこんなにも象徴的に扱われるとは思ってもいませんでした。

その他にも前半に彼がツナに怖い話として語った物語の登場人物とも様々な繋がりが見えてくるのも、わくわくしました、ちょっと触れるどころかこれでもかってくらいに関わってくるので。

 

それから「かうけう」について。

始めその存在が説明された時には、分からないことも多くて言葉遣いも相まってちょっと恐ろしい存在だと感じていました。

 ところが最後の場面。

気が付けば「かうけう」にどこかしら可愛げを感じている私。

 

ツナに関してはとりあえず一喜一憂、疑心暗鬼しすぎてあっちにいったりこっちにいったり。

え? 死んじゃうの? 生きてるの? どうなるの??? と。

とりあえず、どんな展開も急展開なので、告げられる事実、目の前の出来事にワンテンポ遅れて理解と気持ちがついていく。

 

後半は一気読み、という感想もちらほら見かけたけれど、本当にその通りだった......。

この本、怪談だしSFだし何より主人公の少年の成長物語だと思うのです。

 

 

 

 

 

 

『筐底のエルピス』も読まなくちゃ......こっちはなかなかの後味だと聞いているけれど、さて。

 

 

『感情8号線』

感想 畑野智美

『感情8号線』 畑野智美

感情8号線 (祥伝社文庫)

 

畑野智美さんの作品ということで文庫化を機に。

環状8号線沿いに住む、恋愛ごとに心悩ます女性たちを描いた物語。

今まで畑野さんの作品をいくつか読んできたのですが、その中でも群を抜いてぐさぐさと刺さる作品でした。

あまりにも彼女たちが冴えなくて憂鬱で。それでも私とまったく関係のない話だとは言い切れなくて。

吉田恵里香さんの『にじゅうよんのひとみ』とか渡辺優さんの『自由なサメと人間たちの夢』を読んだ時と似たような、刺さり具合。

 


shiyunn.hatenablog.com

 

 

 

バイト先の彼女がいる男性に好意を寄せていたり、彼氏からDVを受けていたり、結婚間近で隣の芝が青く見えてしまったり、夫に不倫疑惑があったり、なし崩し的に上司と不倫関係を続けてしまったり、母親の呪縛から逃れられなくなっていたり。

お話としては、何事もなく日常の一部として消化されていくような結末を迎えるものが多く、それでもきっと似たような悩みを彼女たちは抱き続けるのだろうな、と思わせるような諦観に似た仄暗さがある。

また同じ世界観での話なので、随所で東女人物たちが繋がっている。

あれほど深刻に悩みを吐露していた彼女が別の話では羨望のまなざしを向けられていて、そういった場面に出くわす度に「なんとなく冴えない、どこか不幸な気がする」感情はきっといつまで経ってもついて回ってくるものなのかな、と少し暗い気持ちになる。

 

 

だからといって、こういう雰囲気の物語が嫌いなわけではないのです。たぶん、どちらかと言えば大好物です。

物語の中の人物ではあるけれど、こういう話を読むと刃が突き立てられてぼろぼろになってゆくのと同時にどこか安心する。

なんだ、この冴えない感じがしてしまうの、私だけじゃないんだ、とか。

彼女の気持ちは分かるけれど、流石にここまではひどくないな、とか。

比較する何かがあって、初めて私の輪郭や立ち位置がはっきりとしてゆく感じ。

確かにとても明るい気持ちでなんて読むことはできなかったけれど、こういった気持ちをなかったことにして無頓着で生きている方が私にとっては辛い。

 

 

数ある中でいちばん印象に残っているのは、千歳船橋で暮らす亜実の話。

優しい彼氏とハワイでの挙式も間近、自身も晴れて正社員に、と順風満帆なはずなのにどこか不安に感じてしまう。

偶然出会った昔付き合っていた同級生やバイト先の同年代の女性の存在に心がざわついてしまう。

望むものはないはずなのに、不幸だ。

と亜実は言う。

亜実は家事が得意でないことを、今後の結婚生活の不安のひとつとしてとらえていて、婚姻届けを提出した晩のご飯を張り切ってつくるも、メニューは子供のお誕生日会みたいで味も見栄えもいまいちだった。

そうして衣が剥げてしまっている唐揚げを口にした時の彼の台詞にすっと体温が下がるのを感じた。

「失敗じゃなくて、これが実力じゃん」

「だって、頑張ってこれでしょ?」

「大丈夫。そんなに期待してないから」

この台詞だって、彼なりの優しさで、亜実のできることを精一杯やっていけばいい、できないことは一緒に、という意図が込められていることは後の会話からも分かる。

何気ない場面として描かれているけれど、そういうありがたい優しさにかえってじわじわと首を絞められていくような気分になる。

限りなく自信が幸せな立場にいると頭では分かっているのに、素直にその幸せを享受できない。

不幸だ、と大変だ、ということで一生懸命になっているバイト先の彼女たちのことを羨ましく思う感じ。

読んでいて、たまらない、と思う。

 

 

 

多分、そういった感情はどこに行っても何をしていても付きまとうものなのかもしれない。

 

 

 

にじゅうよんのひとみ

にじゅうよんのひとみ

 

 

自由なサメと人間たちの夢

自由なサメと人間たちの夢

 

 

『最良の嘘の最後のひと言』

感想 河野裕 創元推理文庫

『最良の嘘の最後のひと言』 河野裕

最良の嘘の最後のひと言 (創元推理文庫)

 

よもや河野裕さんの作品が創元社推理文庫から刊行されるなんて夢にも思っていなくて、第一報を目にした時にはとてもわくわくしました。

物語の内容はコンゲーム――登場人物たちが騙し合うミステリ。

私の中で河野さんの文章は、水彩絵具みたいで余韻がとても印象的だったのですが、今回は情報量がぎゅっと詰まっていて、こういう作品も書けるのだとただただ唖然、茫然。

なんだか読んでいてすごく馴染む、と思ったら、雰囲気が伊坂幸太郎さんの文章に似ているのだと気が付きました。作中、演出として象徴的に「ジ・エンターテイナー」が繰り返し流れるあたりとかも。

(......というより、2人に影響を与えた村上春樹作品っぽい、というのがより正確なのかもしれませんが、あまり読んだことがない故)

 

 

超能力者1名を年収8000万にて雇うという告知に対して、最終試験までたどり着くことのできた7名。

限られた時間、行動範囲内で、1通の採用通知書を巡って騙し合う。

超能力、と言っても殺傷能力のある血みどろバトル展開になるのではなく、あくまでも頭脳戦。正社員としての肩書はいらないけれど協力する代わりにお金は欲しい、という立場が生まれることにより関係や思惑を複雑にしているような気がします。

予め能力によって、正社員見込みのある順にナンバーが割り振られているのですが、ナンバリングされていてひとつの席を奪い合うとか、『未来日記』っぽい! と興奮する私。

未来日記』は、がっつり殺し合いサバイバルでしたけれど。

 

 

 

※物語の展開について、核心には触れていませんが......というより複雑に動き過ぎて書きようがないので書きませんが、内容に所々触れているので未読の方はご注意ください。

 

 

分かり切っていることなので言うまでもないかもしれませんが、はっきり言って嘘つきしかいないです。

読者として騙す騙されるどころじゃなくて、怒涛の展開に置き去りになりそうなくらい。

え? あの人がこうなって? でも、さっきのは嘘で? っていうのもまた嘘で? おお?? みたいな。

まさに舌の根の乾かぬ内に。後になって本当に登場人物たちの立場が二転三転、七転び八起きなので、勢力図なんて書きながら読もうものならきっと紙の上が線で真っ黒になるくらい。

あんまり物語の展開について話をしてしまって、まだ読んでいない方の興を削いでしまってもあれなので。とりあえず、みんな嘘つきです。疑うだけ無駄なくらい、嘘つきです。

 

 

 

そしてタイトルにもある「最良の嘘」について。

もちろん、こちらも大きな物語の鍵、主要人物の市倉がなぜこの採用試験に参加したのか、というところに関わってきます。

この嘘に関しても、最初に私が「あ、こういう嘘かな?」と思ったところから逸れて、思いもよらなかった優しい着地をする当たり、やっぱり河野裕さんの作品だ! と心がふわっとしました。

最良の嘘に関するみっつの条件、というのが作中で語られる場面があるのですが、みっつ目だけが終盤になって明かされる。

もう、その条件が明かす時の市倉の表情を想像するだけでなんとなく幸せな気持ちになれそう。

 

ひとつ目は、自分のための嘘ではないこと。

ふたつ目は、相手が信じるまで嘘をつき続けること。

みっつ目は、ネタばらしでだました相手と一緒に笑える嘘であること。

 

何よりも大前提として、その嘘をつく相手と些細なことで笑い合えるような間柄である、そんな相手が隣にいる、というのが、よい。

 

ふたを開けてみれば多くの参加者が、最終試験に挑んだ目的を果たしている、という点もなんだか大団円、という感じがします。

 

 

 

最後に少し。

今回、表紙イラストを担当されているしおんさん。

三秋縋さんの『恋する寄生虫』の表紙イラストも担当されていたんですね。

これは、今後、私(の財布)を苦しめ続けるイラストレーターになるかもしれない......。要注意リストにその名を留めておこうと思います。

 

恋する寄生虫 (メディアワークス文庫)

恋する寄生虫 (メディアワークス文庫)

 

 

 

 

その他の河野裕さんの作品についての感想はこちら↓

河野裕 カテゴリーの記事一覧 - ゆうべによんだ。

 

 

 

『幽霊なんて怖くない』

感想 創元SF文庫 山本弘

『幽霊なんて怖くない』 山本弘

BISビブリオバトル部2 幽霊なんて怖くない (創元SF文庫)

 

BISビブリオバトル部シリーズ2作目。

 

本を他人に紹介するビブリオバトルを扱った物語ということで、読んでるとどんどん他の色んな本も読みたくなります。

はー、今回もめちゃくちゃ堪能しました。

気になる本が出てくるたびに意識があちらこちらに飛んでいくので、いい意味で休まる暇もなく一気読みでした。 

前回も本当に面白くて、あれからSF沼の周りをうろうろすべく解説を書かれていた池澤春奈さんの『SFのSは、ステキのS』を思わず購入してしまうなど。

SFのSは、ステキのS (早川書房)
 

 

 

 

 

 

とりあえず、今回は武人の家にあった古い時計のぜんまいを巻いてみたい! と意気込む銀くんがあざとかわいかったっていう話でもします???

......そんなわけでビブリオバトル部一行は、夏合宿と称して武人の家でビブリオバトルをすることになるのです。夏と言えばお盆だったり肝試しだったりということで、テーマは「恐怖」。

物語にすごくマッチしていた、というのもあって、ここで明日香先輩が紹介していた本がいちばん気になっています。

藤野恵美さんの『七時間目の怪談授業』。

七時間目の怪談授業 (講談社青い鳥文庫)

七時間目の怪談授業 (講談社青い鳥文庫)

 

 

 「幽霊は怖くない。呪いのメールも怖くない――本当に恐ろしいのは、幽霊が存在しないことである」p.152

という明日香先輩の台詞を読んだ時には、思わず鳥肌が。いや、もちろん、恐怖による、とかではなくて。

誰が幽霊の存在を望んだか、と言えば、それは生きている人で。

そんなテーマを扱っていて、感動するようなお話、ということで是非読んでみたい。 

 

 

それから、次いで図書館にて「戦争」を扱ったビブリオバトルを行うことになるのですが、全体的にのほほんとした夏合宿と打って変わって、武人くんのフィクション、SF軽視が苛烈に。

戦争をフィクションで描くなんて本当の悲惨さを、犠牲者を、蔑ろにしている、という武人の言い分も分からない、ということは、ないのです。

だからといって、フィクションすべてがノンフィクションに劣るのかというと、きっとそんなことはない。

「そんなことはない」という理由を上手く言語化することはできないけれど、その部分は作中で空がしっかりと言ってくれたように思う。

ままならない現実に対し、もっと理想的であってほしい、愛で溢れていてほしいと願うからこそ、絵空事でも物語という形に落とし込むのだし、そうやって紡がれた物語に価値がない、なんてことはないと思うのです。

 

 

 

 

今回も、本当にライトノベルからゲームまで色々と多岐に渡って触れられていて、本当にわくわくします。

明日香先輩のライバルとして登場したキャラクター、探偵の話し方を真似て以来すっかり癖になってしまったミステリ好きな彼女がどんな風に本を紹介するのかも楽しみでたまらないです。

SFと並んでハマったら帰ってこられなさそうなミステリ沼。落ちるか落ちないかのぎりぎりのところで、歩いていたい......。でも怖いもの見たさみたいなものもある......。

SF好きとして空が本当にいきいきと描かれているので、なんていうか本当にその場面を読んでいるだけで、こっちまで楽しくなる。手を付けたら果てしないことは分かっているけれど、ちょっと読んでみたいなって。『バーナード嬢曰く。』の神林しかり。

 

バーナード嬢曰く。: 1 (REXコミックス)
 

 

 

 

 

文庫化に際し、今回登場した本に関しては、著者の山本弘さんのブログに記事としてまとめられているので、気になる方はこちらも是非に!

山本弘のSF秘密基地BLOG:『幽霊なんて怖くない』文庫化

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