『黒豚姫の神隠し』 カミツキレイニー
ガガガ文庫の棚にて何度か名前をお見かけしたことのある、カミツキレイニーさんの小説がハヤカワより刊行されると聞いて。
著作が気になるリストには入っていたのですが、なかなか手が出ずにいたのでこれを機に、と。
沖縄を舞台にした怪異譚。
カミツキレイニーさんが沖縄出身ということもあって、方言や島の様子が細かく描かれていました。
ドラゴン飴とかタンナファクルーとかいう名のお菓子たち、気になる。
怪異の影響で体重が常人とはかけ離れているクールビューティーな美少女とのボーイミーツガール小説*1とか、そんなクラスから浮いている美少女の名前が「きよこ」*2だとか個人的なときめきポイントに引っかかって序盤から非常にわくわくしてしまいました。*3
とりあえず分かったことがあるのですが、怪異譚、好きみたいです。
(割とどの小説に対しても好き好き言ってる)
今回のお話で言えば、主人公の少年ヨナは音楽の授業にて清子が歌うのを聴いて、是非自分の撮る『オズの魔法使い』に出演して欲しいと距離を縮めようとするところから始まるのですが。
ともに長い時間を過ごすようになるにつれ、清子の常人離れした部分が色々と露わになっても、ヨナは決して清子をひとりぼっちにしないところが、本当によい。
原因が超常的なものであったとしても、決して諦めないところ。
始めはヨナも映画のため、と思っていた行動もいつの間にか清子の本当は豊かな表情に惹かれていってしまうところも本当になんというか、憂い。
それから、これは完全に私の物語における嗜好なのですが、ひとりぼっちを抱え込んだ少女、というのがたまらなく好きで。
もちろん興奮するとか、そういう話をしているのではなくて、そういった少女が登場する物語を読むたびに心がきゅっとなる。
そうして、「閉じ込められた寂しさ」のほとんどがあたたかくほぐされていくのを見届ける度に心の底から「ああ。よかった」とほっとするのです。
島に伝承として伝わる豚の神様に呪われ、人の姿と豚の姿を移ろう清子の苦悩と、さらに彼女に隠された秘密が明かされた時、彼女の居場所はどこなのだろう、と心配になってしまった。
それでも、清子の母親だったりヨナだったり、彼女のことを見てくれている人はちゃんと傍にいて「わかってるよ! けど俺が出会ったのはお前なんだ」(p.216)というヨナの台詞が特に心に残っています。
また物語の根幹となる伝承に関しても、舞台が閉鎖的な小さな離島ということもあって本当にあり得るかもしれない、と思いました。
......というより、こうして感想記事を書くために調べるまで、宇嘉見島という名の島は実在して黒豚の悪神ウヮーガナシーの伝説は語り継がれているものだと思っていました。(簡単に調べただけなので、もしかしたらほんとのほんとにあるかも)
そういった意味で私にとってちょっと現実味を感じさせるような物語でした。
あとがきによればデビュー作の『こうして彼は屋上を燃やすことにした』も、今回と同様『オズの魔法使い』をモチーフにした部分があるようなんで、読んでみたい。
『こうして彼は屋上を燃やすことにした』、評判はいくつかネット上で目にしたことはあって、兼ねてから読みたいと思っていたのです。
- 作者: 西尾維新,VOFAN
- 出版社/メーカー: 講談社
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