『さくら荘のペットな彼女』シリーズの鴨志田一さんによる作品。
『さくら荘のペットな彼女』はアニメとして観たことがあり、クリエイターたちが一堂に暮らすという私好みの設定もあって、とても楽しかった印象があるのでこちらの作品も読んでみることにしました。
ゆくゆくは『さくら荘のペットな彼女』も読んでみたいとは思うのですが、ここ最近の私は明らかに許容量を超えていろいろなシリーズ作品に手を出しすぎているので、ちゃんと消化してから次に行くようにしたい、と、思ってはいるのです、よ。
※本編の内容、結末に触れています。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
主人公の高校二年生の梓川咲太は、ある日図書館にてバニーガールに出会う。
ただ、そのバニーガールの姿を認識できるのはその場では咲太だけであるらしい。
自身の姿が本当に見えないのか確かめるためにわざと奇抜なバニーガールの格好をしていた、活動休止中のタレントであり咲太の先輩でもある桜島麻衣とともにその原因を探る。
インターネット上で実しやかに噂されているという、思春期症候群。
思春期における少年少女の精神状態により様々な現象を引き起こすというもので、咲太の過去の経験から麻衣の症状も思春期症候群ではないかと疑う。
まず咲太のキャラクターなのですが、非常にのらりくらりしていてなんだか読んでいてそわそわしてしまう。こう、本音を自分から言わずに、「本当はそんなこと心にも思ってないでしょ」と相手に指摘させてからそれを認める形で会話を進めてゆく。
多分、私自身が咲太との距離を測りかねてしまっていたのだと思います。そのくせ、なんだかんだ言って譲れないものはちゃんと心得ているのでとても曲者である。
麻衣先輩も麻衣先輩で咲太に対して、「先輩」らし落ち着き払った存在であろうとするものの、時々見事にぼろがボロボロで咲太に軽くからかわれてしまう。それでも基本的に麻衣先輩も麻衣先輩であまり本当のことを口には出さない。
もどかしい、というのとは違う感じで、二人のやり取りを見ていてとてもむずむずとする。......むずむずと、していた。
だんだんと麻衣先輩の症状は深刻になって、人の記憶からも消えて行ってしまっているのに、どこか空気の抜けた二人の会話の雰囲気は変わらない。
後半になって、ようやく私はこれが二人の今のところの適切な距離感だと理解する。
「今、私が震えながら『消えたくない』って言って、泣き出したらどうする?」
という麻衣先輩の台詞も色んなものの裏返しの感情からくるもので、きっとそれが裏返しだと咲太もちゃんと分かっているからこそ、二人はいつまでも落ち着いて会話することができるし、そこから安心感に似た何かを、多分、得ている。
......それでも、最後の最後には咲太まで麻衣先輩のことを忘れてしまいそうになって。
ふと、平山瑞穂さんの『忘れないと誓ったぼくがいた』という作品を思い出してしまう。
ちゃんと最後には、二人には似合わないくらいのハッピーエンドでほっと安心する。
気が付けば、「あれ。君たち、そんなにラブラブだったっけ?」というくらいに。
最後のシーンでの麻衣先輩の涙の理由がとても健気で可愛らしくて、多分、すごい気の抜けた顔しながら読んでいたと思う......。
そして咲太と麻衣先輩が付き合い始めてめでたしめでたし、
と思いきや、最後の最後で時間が巻き戻って、二人の交際すらなかったことに......?
なんだこれ、こんな終わり方するなんて聞いてない......これがシリーズ展開前提で書かれたライトノベルの一巻か......さすがに小奇麗にまとまって終わってくれない。
そうですよね、双葉の恋の行方や咲太の初恋の相手のことなど気になるところばかりですもんね。
完全に続きが気になる罪深い商法......やはりあらかじめ複数巻買いしていた私の目に狂いはなかった。