ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『ハルコナ』

『ハルコナ』  秋田禎信

ハルコナ (新潮文庫nex)

 

『魔術師オーフェン』シリーズの秋田禎信さんの作品。

オーフェンも、名前は知っているのですが、今から読み始めるには私の覚悟とか度胸が足りない……。

 

 

 ある特異的な体質をもった少女を巡る物語。

その少女、ハルコはある程度の範囲の周囲の花粉を消し去ることができる。その一方で少量の花粉でも彼女の体にとっては毒であり、常に重たい防護服を身にまとって生活をしなければならない。

ハルコの名と、花粉、春の粉で『ハルコナ』?

 

 ただそういった体質は周囲に認知されており、花粉の飛散する範囲を塗りつぶすように各都市ごとにハルコと同じような体質の人間が置かれ、然るべき機関からそのための生活も保障されている。

 主人公の少年、遠夜は、ハルコの補助役として彼女が外出する際には、危険の及ばぬように常に彼女の傍にいる。

 

 

ちょうど去年の今頃に読んだ石持浅海さんの『フライ・バイ・ワイヤ』という作品を思い出しました。

教室に明らさまにロボットのようなものがいる状態で、平然と授業が進んでいく感じや、そんな異質なものに対する周囲の反応が少し似ていたので。

とはいえ、あちらはロボットの「死」を巡るミステリーなので、話の方向性は違いますが。


『フライ・バイ・ワイヤ』 - ゆうべによんだ。

 

 

 とはいえ、明確な原理が分からないだけあって、自然保護など様々な理由をつけて抗議をする団体が現れ始め、遠夜とハルコを取り巻く状況は、大きな波にさらわれるように変化してしまう。

 

 

学生としての立場であったり、ハルコの介護者であったり、はたまた匿名性のあるSNS上であったり。

遠夜は、ざまざまな立場の上で何を優先すべきなのか、何が大事なのかという選択を迫られる。

 

それでも一貫して、遠夜の思いはハルコ本人に向いているのがとても尊い。

体質持ちとしてのハルコ、ではなくて。

 

この物語の結末として、ハルコの死が待ち受けていたり、遠夜が剣を握りしめ振りかざしたりすることはないけれど、遠夜とハルコの選んだものはきっと何よりも「かたい」。

 

花粉を消し去るという体質は現実離れしているけれど、それを取り巻く状況は大なり小なり切り取り方は違えど、きっと現実世界のどこにでも溢れていて。

 

きっと遠夜たちが守り続けてきたものから、1度でも目を背けてしまえば、きっと理由や建前や目的が倒錯してしまいかねない。

 ひとことでは言い表せない、遠夜たちが選んだものがこの物語に詰まっていて、分かりやすくそれが表れている部分に出くわすたびにそのページに付箋を貼りたくなってしまう。

ごたごたに巻き込まれた遠夜が忘れたくない大事なことのひとつとして、ハルコの誕生日を挙げた時、なんていうか、かなわない、と思ってしまった。

 そうやって誕生日やいろいろなことを忘れてしまいそうになることに、怒りを感じるのだと。

 

 

私が同じ状況になったとして、同じように大事にしたい相手がいたとしても、遠夜と同じようなことに怒りを感じることは、きっと、ない。

多分、それこそ付箋を貼るくらいに常に目立たせて置かなければ、あっという間に流されてしまう。

 

 

帯に純愛小説、と惹句が書かれていたけれど、確かに「愛」と呼びうる何かがそこにはあると感じました。

おそらく遠夜とハルコが生きていく上でまだまだトラブルは起こり得るだろうけれど、誕生日含め大事なものを忘れなければ、彼らは絶対に大丈夫のような、気がしている。