発表者の本の紹介を聞き、「どの本が読みたくなったか」という基準でチャンプ本を投票で決するビブリオバトル。
そんな知的ゲームのような書評会を題材にしたBISビブリオバトル部シリーズ3作目。
本にまつわる物語ということで、実在のSFやミステリ、ノンフィクションなど幅広いジャンルにわたる様々な作品が登場するので、読みながらにして読みたい本が次々増えていくという私にとって大変”罪深い”シリーズ。
前作までの感想はこちら。
今回は物語の終盤にかけて明かされる事実に驚きあり、いつもに増して非常にそそられる本の紹介ありと、とても充実した読書でした。
作中紹介されていた本の中でいちばん印象に残っているのは何といっても『毒入りチョコレート事件』。
登場人物によるビブリオバトルでのプレゼンテーションがとても鮮やかで、雰囲気作りから事前準備まで、舌を巻く程の抜かりの無さに本当に驚きました。
ちょうど今バレンタインシーズンということもあって、チョコレートを目にするたびに『毒入りチョコレート事件』という文字が過りそう。
それから私の大好きな『氷菓』シリーズの『愚者のエンドロール』に、『毒入りチョコレート事件』のオマージュをした場面があるということも初耳で、またひとつ知識を得てしまった。点在していた好きなものたちが線で繋がっていく感覚は本当に楽しい。
誰かに語りたい。今すぐ得意顔で語りたい。
『愚者のエンドロール』の順番に推理を披露していく形はもちろん、千反田えるが口にしたウイスキーボンボンにも意味があるのだという話をしたい。
また、このビブリオバトルの”伏線”として「文学少女」シリーズが登場し、作中人物が実際に食べてみたかという話に繋がっていく。
普通なら「そんなことまでするわけないじゃん、「文学少女」の遠子先輩はフィクションの存在だから」と一笑に付す場面なのかもしれません。
が、『しあわせの書ー迷探偵ヨギガンジーの心霊術』を読み終えた後、まさかと思ってページを舐めたことをつい思い出しました......。いや、だって、読む前にこの本には「仕掛け」があるって聞いてたから。
それから、長らく中途半端にして積んでる「文学少女」シリーズの続きを読もうね、私。
作中の人物たちが話をしている中で純粋に「面白そう!!」と感じたのはソウヤーの作品。
フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫 SF ソ 1-12) (ハヤカワ文庫SF)
- 作者: ロバート・J・ソウヤー,内田昌之
- 出版社/メーカー: 早川書房
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特に『ターミナル・エクスペリメント』は「自身の複製した人格が犯した殺人の真相を追う」というあらすじを聞いていて、人工知能やAIのようなものを扱っていてまさに現代的だ! と感じました。
ミステリの中でも犯行動機、理由をめぐるワイダニットの物語が好きで、本来殺人を犯す程の度胸はないはずなのに何故コピーした人格は罪を犯したのか、なんて絶対ただならない深い事情があるに間違いない、と。
作中、ミステリを読む楽しさのひとつに「種明かしの前と後でまったく違う景色が現れること」というような記述があって、そういう意味でもワイダニットの物語が本当に好きなんです。
陳腐な例ですが狂人だと思っていた人が、実は想像もできないほどの思いやりから行動していたことが明かされる、とか。
トリックや論理証明とはまた違って、感情が揺さぶられる感覚が本当にたまらない。
また、物語全体を通していくつか仕掛けが施されていて、番外編として掲載されている『空の夏休み』というコミケに初めて空が参加する物語までもが仕掛けのひとつだとすぐには気がつかなくて。
また寿美歌さんにまつわる秘密の真相にはっきりとした解答が提示されないの、『毒入りチョコレート事件』と同じ形ですね!!!! (覚えたての知識はすぐつかう)
一連の謎に終止符が打たれる話における章題及び寿美歌さんの台詞が「だってそんなの、伏線なかったじゃない!」なのですが、エピローグでの最後の一行の方が私にとって「だってそんなの、伏線なかったじゃない!」という驚きが大きくて。
この先どうなってしまうの......。
というか、彼ら彼女らは最後に起こった出来事に対してどういうリアクションをするの......。
元来より大好きなシリーズではあったけれど、ここにきて一層気になる展開になってしまった。
ここでいったん幕引きとは、なんとも"罪深い"。