『フライ・バイ・ワイヤ』 石持浅海
石持浅海さんによる青春ミステリ。
『扉は閉ざされたまま』から始まる碓氷優佳シリーズが前々から気になっていて、石持浅海さんの名前は知っていたのですが、そのままずるずると読まず仕舞いで……。
Twitterや書店の店頭で今回の刊行を知り、深山フギンさんの表紙イラストもとても爽やかで興味惹かれたので、石持浅海さんの作品を読むいい機会だ、と思い手に取ってみました。
結論から言ってしまえば、大満足でした!
もっと早くから碓氷優佳シリーズ読み始めておけばよかったと後悔するくらいに……。
ひたすらに小説を読み続ける私が他に二人くらい欲しい……。
◇二足歩行ロボットの転入生
ざっくりあらすじ。
舞台は近未来。
衛星で太陽から得た電気を地上に送る技術が確立し、エネルギー不足には困らないくらいには近未来。
ある日、主人公の男子高校生、宮野隆也のクラスに二足歩行ロボットの転入生が訪れる。
そのロボット、もとい、彼女曰く病気がちで学校に通えない人間が健康な人間と同様に遠隔操作により学校で学習できるようにするための試験実験だという。
優秀な工科大学の付属校のクラスということもあり、見た目はロボットながらもクラスメイト達は状況をすんなりと受け入れ、そのロボットを一人の転入生、一ノ瀬梨香として接するようになる。
しかし、定期テストで彼女が高得点をたたき出したことをきっかけに、彼女に関してカンニング疑惑をはじめ、あらゆる疑念が渦巻きはじめてしまう。
そんな最中、校内でクラスメイトの1人の撲殺したいが発見され、ロボットの背中には被害者の血で染まっているのが発見される……。
このお話、普通だったら被害者の血痕が付いている時点でロボットが犯人である可能性が極めて高くなってしまうのですが、ロボットは人間に危害を与えてはならない、から始まるロボット三原則が前提になっているので、第一の謎としては、なぜロボットの背面に血が付着していたか、になるんですよね。
そのような感じであり得るかもしれない少し先の未来が舞台のお話なので、純粋に犯人を捜すだけにとどまらず、ロボットがいるという前提で推理が進んでいくのでとても新鮮でした。
む、犯人は誰だろうと頭を悩ますことよりも、なるほどロボットだからそういう可能性も、そういう状況も考えなきゃいけないのか、と新鮮に感じる場面が多々ありました。
◇ロボットか人か
ミステリ要素だけでなく、ロボットを介して学校に通う一ノ瀬梨香は果たしてロボットなのか人なのかという問いと、それに対する最後の結末がすごくお気に入り。
『宮野くんにとって、わたしって――』
梨香はつぶやいた。
『"一ノ瀬梨香"なのかな。それとも、"IMMID-28"?』
p9
序章にも上記のような一説があるのですが、ミステリ要素はもちろんのこと、主人公の宮野くんやクラスメイト、梨香自身を含め、ロボットの助けを得て自由に動ける状態であったとしても、それは本人と言い切れるのか、という悩みの描かれ方が印象的でした。
果たしてロボットと接しているのか、ちゃんとロボットを通して一ノ瀬梨香という人間と向かい合えているのか。そもそも、一ノ瀬梨香という人間は存在するのだろうか。
現代でも、体の機能を拡張するような技術や道具はいろいろありますが、その技術も発達するところまでしてしまうと、一線を引き難くなるのかな、と。
そして最後まで読み通した上で、改めて表紙イラストを見ると、より一層映えます。
イラストの見方が180°変わる、という類ではないですが、結末を経てイラストにいろいろ意味づけすると、すごくいいな、と思えるのです。
※これ以上、ネタバレなしでは書ききれそうにないので未読の方はご注意ください。
最後はとても希望を感じさせる終わり方だったんですが、宮野くんは一貫して梨香の人間性を認めていたってところがすごくいいな、と思いました。
少々揺らいでしまうことはあったものの、ちゃんとロボットを操る梨香自身を見つめていたところ。
表紙イラストはきっと、小説終盤の二人乗りをする場面ですよね。
お話では、いかにもロボットな見た目を隠すために梨香に合羽を着せていたのですが、表紙では人間としての少女が描かれているところがすごくよい。
思わずため息をついてしまうくらい。
これは勝手な自己解釈なのですが、宮野くんにとって梨香自身を後ろに乗せていることに他ならず、梨香にとっても人間として身を寄せていることに他ならなかった、と考えるとお話もイラストさらに素敵なものに思えてきて。
そんな二人の関係性も殊更。
というか、最後の、宮野くんが梨香の頬に触れて語りかける場面、その画やまなざしやことばが、もう、すごく綺麗で。