ラッコのキャラクターが印象的な、出版関係者が共通のテーマをもとに作品を選ぶナツヨム。
今年のテーマは「音」 。
各出版社が行っている夏の文庫フェアとはひと味違う観点で文庫本が集められていて、とにかくフェアの棚の前に立ってどんな作品が選ばれているのか見てみたくて、いつもお世話になっている大型書店の棚に並べられるのを今か今かと心待ちにしていました。
ナツヨムフェアの詳しい内容や開催店舗については下記のTwitterやFacebookの公式アカウントにてお知らせしているみたいなので、是非足を運んでみてください!
◇「音」をテーマにあれこれ。
◇手書きの帯がずるい。
◇もしも私が選ぶなら。
『オーデュボンの祈り』
伊坂幸太郎さんのデビュー作ですね。
主人公の伊藤が、江戸時代以来外部との関わりが遮断された孤島に行き着き、その島での不思議な人々や未来を見通す喋る案山子と出会う話。
不思議で閉鎖的で不完全なこの島に足りないものとは……。
今さら私がここで挙げるまでもない作品なのかもしれませんね。伊坂作品には魅力的なキャラクターが多く登場するのですが、この作品に登場する喋る案山子の「優午」も私のお気に入りキャラクターの1人(?)です。
読んだことがある方なら、「音」でこの作品が浮かんだ私の気持ちがわかるはず……たぶん。
『サマータイム』
何年も前に読んだ佐藤多佳子さんの作品。
(読んだのがあまりにも昔なのでもしかしたら記憶違いがあるかもしれません、あしからず)
姉弟と片腕のない大人びた男の子、広一との出会いを描いた作品で、4編の連作短編で構成されています。
ジャズピアニストの母をもつ広一が片腕でピアノを弾くシーンが印象に残っていて、音楽という意味合いでの「音」としてこの作品が思い浮かびました。
その中でも表題作の『サマータイム』がすごくお気に入りです。
鬱屈としてしまいそうな状況を小学生の目線できらきらとした素直な感情を描いているのですが、3人でゼリーを食べるシーンがすごく爽やかで、これからの時期にもぴったりなのかも。
『求愛瞳孔反射』
ナツヨムフェアにて詩歌作品が多く取り扱われていたのを受けて、私は穂村弘さんの『求愛瞳孔反射』を挙げたいと思います。
紀伊国屋書店で行われたほんのまくらフェアでも、「あした世界が終わる日に一緒に過ごす人がいない」という書き出しで売り上げ1位に輝いたこちらの詩集。
すべて恋愛にまつわる詩で構成されていて、きゅっとするものもあれば、あまりにもパワフルでどきり、としてしまうものも。
難しいこと考えずに、感覚で、これいいかも、と思える作品がいくつもあり、時々本棚から引っ張り出してはぱらぱらと読み返してしまいます。
『シューマンの指』
奥泉光さんによるミステリ。
挙げた理由は言うまでもなく。
正直、この作品は好き嫌いがはっきり分かれてしまうかもしれないです。
女子高生の死や指を失った天才ピアニストの永嶺修人の謎を追う傍ら、シューマンへの愛が倒錯的に語られます。クラシックに詳しい方なら、きっと入り込めるはず。
作品の雰囲気もどこか静かで森の奥深くにいるような、端っこで常に不安を感じさせるような。
前半部分は特にシューマンについてこんこんと語られているのでここで苦手意識を感じてしまう人もいるのかも。
物語の後半にかけて一気に展開し、最後には予期せぬ結末を迎えます。
……陳腐な言い回しですがあまり語りすぎるとネタバレになってしまいそうで。
読後感がイヤにもよもよするミステリ好きなそこのあなたはぜひ。
『演奏しない軽音部と4枚のCD』
聴く専門の軽音部員と読む専門の文芸部員による、洋楽の知識をもとに日常の謎に挑む青春ミステリ。
ひとまず、主人公の未來ちゃんの性格がかなり突き抜けているところは置いておいて(笑)
4枚同時再生が必要なCDの意味を探るため、軽音部室を訪れる場面から始まるこの作品、謎とその謎を解く鍵としての洋楽CDの使われ方がすごく好きです。
パワフルな文芸部員の未來と押しの弱い軽音部員の雪文のやり取りもコミカルで。
……というより、何度も言うように中々に境遇含め未來ちゃんのキャラクターが凄まじくて。
こちらも洋楽の知識が出てくるものの、比較的読みやすくて密かに続き物出てくれないかなとも思っていたり。
◇最後に。
『さよならドビュッシー』から始まる「岬洋介シリーズ」よりもアクの強い話として『シューマンの指』、「ハルチカ」シリーズとは違った音楽青春ミステリとして『演奏しない軽音部と4枚のCD』を挙げてみました。
本当はどんな読書家さんも知らないような隠し玉、みたいな作品をあげられたらよかったのだけれど、あまりにも私の引き出しが少なくてちょっぴり悲しい。
出版業界のまわし者、というわけではないですが、ナツヨムフェアしかり私が挙げた作品しかり、書店に出向いて自分の目でどんな作品か直感で選び取ってもらいたいな、と思います。
(肌に合わなくても責任取らないですよ、の意)
……そして積読本に苦しんでしまえばいい!