単行本として刊行された時から気になって気になって仕方がなかったこの作品。
文庫化した折にようやく読みました。
『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』
もうタイトルのリズムも、サン=テグジュペリが入っているところも、私の趣味どんぴしゃすぎて。
紅玉いづきさんの作品を読むのはこれが初めてではないのですが、たまらなくすきな作家さんのひとりです。
今回の作品もそうでしたが、上手く言葉にはできないのですが、思わず泣いてしまいそうになる。
ああ、そのままでいいんだ、とか、よかった、というような安堵の涙。
「泣ける」と帯に銘打たれるような、実際に涙を流してどこかすっきりするような作品と違って、ふわっと沁みて滲むような。
主人公は、文学者の名を戴きサーカスで演目をする少女たち。
ブランコ乗りのサン=テグジュペリ。
猛獣使いのカフカ。
歌姫アンデルセン。
彼女たちは、少女そのものの未完成さを売りに、お客を集める。
また、その名を手にし実際に演目を任されるのは一部のエリートのみ。
なりきれなかった幾多の少女の羨望と嫉妬の眼差しを受けながら彼女たちは、役目を終え、名を受け渡すその日まで舞台に上がり続ける。
練習中に怪我をしてしまった双子の姉の代わりにサン=テグジュペリとして舞台に立つ愛涙(える)。
華やかな姉に比べて劣ると感じている愛涙は、様々な悪意や期待に晒されながらも、姉が再びサン=テグジュペリとして宙を舞う日だけを信じて、姉のために演目を続ける。
本当は、姉の代わりに舞う資格なんてないと感じていて、コップの縁いっぱいに湛えられた水面に波紋が広がる度に、溢れてしまわないかと怯えている。
出来ることならば捨ててしまいたいけれど、切り離せずには生きていけないと。
現状に抗おうとする度に傷付いていく彼女たちだけれど、そんな少女の不完全さそのものを優しく包んでくれるような終わり方で。
もう、この、もやもやとした閉塞感を抱えた少女たちが救われていくのがすごくきゅっとなる。
そのままの彼女たちを穿った視線でなくありのままに受け止めてくれる誰かが側にいて、彼女たちが抱える閉塞感なんてなんでもないんだって思わせてくれる。
大好きなサン=テグジュペリの作品もちらりと登場したりもして。
とてもいい作品に出会えて幸せです。
そう、初めに安堵、と書いたけれど、きっと、これは幸福感にも似ていると思うのです。
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