このアンソロジーの橋本紡さんの50ページほどの短編なんですが、雰囲気がすごくたまらない。
3年間同棲していた男女が別れをきっかけに別々のところに住むことになり、引っ越し業者が来るまでに互いの荷物を整理している場面の話で、ふたりが荷物を整理しながらぽつぽつと会話をしながら進んでいきます。
どちらかが感情的になることも、話が大きく動くこともなく淡々と語られていくのですが2人の間に流れる空気がなんていうか、もう。
簡単に言ってしまえば「切ない」とか「哀愁漂う」感じの作品なんですが、大きな言葉でくくりたくない私としては、「なんていうかもう」という表現がぴったり。
……というか具体的な言葉で説明しようとすると作品に対しているもやもやを損なってしまうような気がして。
本を読んで心の底から、ふわ、と舞い上がったものを限りある言葉で捉えようとするとどうやっても食い違ってきてそのうち言葉の方に引っ張られて、今抱いている感情と最初に抱いた感情が本当に同じものだったのか分からなくなってしまう。
橋本紡さんの小説は『桜に小禽』に出会う前から好きで、初めて『九つの、物語』を読んだ時はいろんな言葉がぐるぐると巡ってねむれなくなるくらい。
集英社の夏の文庫フェアか何かで何気なく手に取ったのが最初だったかも。
この作品に出合うまでどちらかというと鮮やかな伏線とかキャラクターが小説の好みの判断材料だったのが、この作品を読んで「あたたかな」雰囲気の話がたまらなく好きになりました。
兄の禎文と大学生の妹のゆきなの話なんですが、とあるきっかけによりゆきなが打ちのめされて心身ともにくたくたになってしまうのですが、あたたかい料理がいつもそばにはあって。
料理上手になりたい、と思い毎日とはいかないまでも自炊をし始めるきっかけになったのはこの本でもあったり。
料理上手になりたい、というより、恋愛感情に限らず好きな誰かが居たとして、適切な言葉をかけてあげたり、それこそずっとそばに付き添ってあげたりすることはできないくても、せめてもあたたかくておいしいと思える料理だけは出してあげたい、という方がより正確かも。
また、タイトルの通り太宰治や泉鏡花などの作品が登場し、ゆきなの心情とリンクしていくのでそういう意味でも本好きの方にはぜひ読んでみてほしい。
そして感想ください。
本当にこの本は好きで、夜通しでも語り合いたいくらい 。
橋本紡さんと桜、という意味では『葉桜』も好きです。
高校生の佳奈が書道教室の先生に思いを寄せるけれど、その先生には奥さんがいて……という話なんですが、禁断の恋とかどろどろとかそんな言葉とはかけ離れた雰囲気の小説です。
高校生の女の子が叶わぬ恋を前に、自分自身なりに思いきり悩みながら前に進んでいく話です。
確かに桜の花びらはきれいだけれど、その花びらはいつかすべて散ってしまう。
花びらが散ってしまうことは散ってしまうことは決して悲しいことではなく、桜の木は自身の成長のため、次の春のために青々とした葉をつける。
これもすごく雰囲気が好きで、もうやたらいろんな小説に対して雰囲気が好きと言っているような気がするんですが、まずは書店に出向いて『桜に小禽』を読んでみてこれ好きかも、と思ったら間違いなく気に入るはずです。
あくまでもイメージなんですが、橋本紡さんの小説に出てくる女の子って自分の頭の中でいろいろ考えすぎるが故に、傷つくことに臆病になってしまったりどこか卑屈になって歪んでしまったりする子が多い印象です。
そんな登場人物の抱く心情や境遇に共感できる部分ももちろんあって、決して鮮やかで派手な結末ではないけれどちゃんと最後には誰かが手を差し伸べてくれる結末は、何に対して、というわけでもないけれどなんだか泣きたくなる。
Twitterの方でもちょろっと呟いたんですが、葉桜もすごく好きなんです。
5月の陽光の下、太陽の光を葉いっぱいに受けている並木通りを歩くと、青々とした葉の色が目に飛び込んできて、目の奥がきゅっとするような心が弾むような……伝わらないかな?(笑)
木漏れ日、とか葉が風に揺れる感じ、とか花とは違った穏やかな雰囲気が好きなんです。
……と、これからも時々はこんな感じで感想とかではなく思いの動くままに本の話したいな、と思っています。
本に限らず、好きなものの事をいろいろ書いていきたいです。
毎月初めに書いていく予定ですが、もしかしたら何かの拍子に気の赴くままに更新しちゃうかもです。