ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『探偵は教室にいない』

『探偵は教室にいない』 川澄浩平

探偵は教室にいない

 

北海道の中学校に通う少年少女たちの日常をめぐるミステリ。

不安定な人間関係や幼く未熟であるがゆえのままならさが瑞々しく描かれた第28回鮎川哲也賞受賞作。

差出人不明のラブレターや突然合唱コンクールの伴奏者を固辞する同級生など、引き起こされる数々の謎を通して、少女は新たな感情をまたひとつ知る。

 

 

 

中学生の少女が主人公ということで、取り扱われる日常の謎の大きすぎない程よいスケール感と、謎を解いた後に残る余韻がたまらなく良かった。

 

 

 

例えば一番最初の、主人公の少女に宛てられた差出人不明のラブレターにまつわるお話。

 

不登校の幼馴染の推理により少しずつ差出人の正体が割り出されていく過程の中で、身近な人から好意を向けられているかもしれないということを少しずつ受け止めていこうとする少女の心の動きが繊細に描かれていてとてもよかった。

もちろんミステリとして最後には差出人が判明するのだけれど、今まで築いてきた関係がラブレターによって変わってしまうかもしれない、自分はどうしたら良いのだろうという迷いが生じてしまう。

物語の中で、この「迷い」に対して鮮やかな解答を提示するでもなく、迷いとともに寄り添うような結末がとても爽やかで。あまりにも読み終えた後の余韻が良いものだから、思わずひと息ついて天を仰いでしまった。

当事者にとっては深刻な悩みでも少女たちの前にはまだまだ大きな未来が広がっていて、その途上ではこうした「迷い」すら日常の一部なのかもしれない。

 

 

 

 

合唱コンクールの伴奏者を辞退した少年をめぐる『ピアニストは蚊帳の外』もお気に入り。一見すると大人しそうな少年が心に秘めた思いの描かれ方がとても良くて。

このお話は夢の挫折がテーマのひとつになっている。

自らの夢を諦めたつもりでも夢を追いかけていた頃の情熱や思いを捨てきることはできなくて、中途半端に音楽を消費する他人につい苛烈な感情を向けてしまう。

 

自分で見切りをつけて夢を手放してしまう物分かりの良さにとてもやるせない気持ちになってしまった。

最初に抱いた大きな夢を、現実に見合うように少しずつ削り取ったり、夢そのものを諦めたりするという過程を、誰しも経てきたように私も経てきた。

幼いながらも才能の無さを痛感した少年の気持ちを思うと少し心が苦しい。

音楽を中途半端に語る人たちに向ける厳しい眼差しに、かつてどれほど少年が音楽に熱意を注いでいたのかを知って、今現在静かにその夢を諦めてしまっていることが一層苦しく思ってしまう。

 

その一方で、自分の大事なものをおざなりに扱う人を心から許すことのできない正義感や幼さも見出しては、私自身心はいつでも昔に戻れるつもりでいても既に十分歳を取ってしまったことを知る。

 

 

 

 

他2編も、ミステリとして描かれる日常の謎はもちろんのこと、北海道を舞台に中学生の少年少女たちの心の機微が静謐な筆致で描かれていて、いつまでも余韻に揺蕩っていたいような物語でした。