『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝』 暁佳奈
京都アニメーションによるアニメ化も評判だった『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。
今回私が手に取ったのは、その原作小説の外伝にあたる作品。
一部、アニメ化されたお話と重なる部分もあるのですが、上下巻で語られたお話のその後や郵便社メンバーの掘り下げなど、「外伝」と位置付けられながらも本編と変わらず素敵な物語でした。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』本編の感想はこちら。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 上』 - ゆうべによんだ。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 下』 - ゆうべによんだ。
まずはじめに。
主人公のヴァイオレットの言葉から本編からの時間の経過を感じさせるような場面がいくつかあって、その度にしみじみとしてしまう。
彼女の過去の苦しみや代筆の仕事を通して出会ってきた人々を思い返しては、ひとことでは言い表せないほどのあたたかい気持ちでいっぱいになる。
「お嬢様、眠れないのであれば星座の話でも致しましょうか。ずっと、勉強しているのです」
p.84 - 『永遠と自動手記人形』
ヴァイオレットが口にした、星座の勉強をしているという小さな事実がたまらなく嬉しい。
きっと上巻の『学者と自動手記人形』で交わした会話からくるものなのだと思うのですが、「学者」だけでなく、彼女は今まで出会った人たちのことをしっかりと覚えていて、素直な性格だから交わした約束も律義に守っていて。
そうやって色んな人たちが彼女の中でも生き続けている、ということが何気ない会話の端っこから窺がえて、些細な言葉に膨大な人との出会いと時間の流れをそこに見る。
それから、郵便社の人たちの過去や関係性に関する掘り下げがあって、一層彼・彼女たちのことが好きになってしまう。
まずは、ベネディクト・ブルーの過去とカトレア・ボードレールとの関係。
いやあ、そもそもベネディクトとカトレアの間に恋と呼びうる感情が芽生えるとは予想していなかったので単純な驚きというのもあったのですが、言われてみればじゃれ合うように言い争うふたりはお似合いに見える。
ふたりとも本来であればどこか大人な考え、振る舞いをする人たちなのに、お互いを目の前にすると本当にこどもみたいに言葉をぶつけ合うの、本当に微笑ましい。
そしてギルベルトとホッジンズの出会い。
本編では登場時から親友として描写されていたのですが、彼らがどのようにして出会い、どのようにして仲を深めたのかが語られる今回。
先のふたりもそうだけれど、もう、読めば読むほどに私の中で彼らの人間味が増してゆく。
特に、過去の回想の末、ギルベルトの元をホッジンズが訪れた際の会話がたまらなく好き。
(失敗した手料理を前にして)
「どきなさい、俺が味付けてやろう」
「阿呆、違うそれは塩じゃない」
「香辛料がまったく無いんだけど。お前、塩と砂糖だけで生きてるの?」
「……外食の習慣が長いんだ。ホッジンズ、もう止めよう。これは食べ物じゃない」
「馬鹿言いなさんな。取り返しのつかないものなんて無いんだよ」
「そうか?」
「そうだよ。諦めるな」
p.292 - 『ギルベルト・ブーゲンビリアとクラウディア・ホッジンズ』
なんて含蓄のある「取り返しのつかないものなんて無いんだよ」......。
そして最後に、郵便社の人たちの絆とヴァイオレットの愛にまつわる物語。
前回の列車事件の時も思ったけれど、郵便社の人たち、互いに互いのことが大切過ぎて、普段は軽口叩き合いながらも有事の際には一致団結する感じが格好良い。
王道の展開なのかもしれないけれど、いつ読んでも心が躍る。
そうして恋愛に限らず「愛」に満ち満ちた環境で、ヴァイオレット自身が手探りながらも愛を知ってゆくという過程がたまらなく胸にゆっくりと染み渡る。
寸分の疑う余地もなく、私はこの物語が、この人たちが好きなのだけれど、それはきっと「物語を動かす登場人物」としてでなく、よりキャラクターとして親しみを感じているから。
彼、彼女らの悩んできた時間とそれを乗り越えた先の成長が間違いなくそこにはあって、そのどれもが人の思いに溢れていて、私の心の中に強く残り続けるからなのかもしれない。