ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『Hello,Hello and Hello』

『Hello,Hello and Hello』 葉月文

Hello,Hello and Hello (電撃文庫)

 

第24回電撃小説大賞、金賞受賞作品。

タイトルやイラスト含め、あらすじ等全体の雰囲気に惹かれたので。

 

 

※以下、内容に触れています。未読の方、ネタバレを避けたい方はご注意ください。

 

 

あらすじ

「初めまして」の言葉とともに主人公の春由の前に姿を現したのは、透き通るような白い肌をした不思議な少女、椎名由希。

彼女の口から飛び出す突然の提案に戸惑いながらも、ふたりは何気ない時間を重ねてゆく。

そうして数えきれない程の約束をして、それと同じ数だけその約束を破ってきた。

「初めまして」

叶えられなかった約束の分だけ、忘れられてしまった思い出の分だけ、そう言ってまた、由希と春由は出会う。

 

 

叶えられない約束をするということ

由希は事情により、一週間しか誰かの記憶に残らず、その他の生きていた痕跡何もかもリセットされてしまうのですが、まずはこの物語の構成が何よりも妙で。

春由がきっと何か過去に約束をしたのだろうということを仄めかしながらも、由希の実態がつかめずにふわふわとしたまま色んなピースを散りばめた上での、後半に由希の真意がわかるという展開。

そういう意味では、大学祭で映画を見た後の「だから約束通り、お断りしようと思います」という由希の台詞が私にはとてつもない威力をもって響いた。

 

約束をしては叶えられずに忘れ去られてしまう、ということを何度も経験しながらも、何度も約束してしまうという「どうしようもなさ」が本当にたまらなくすき。

結局は約束を忘れてしまう春由を前に、彼に非がないときっと頭では分かっていながらも「うそつき」と小さくこぼしてしまう由希に、彼女が抱いたであろう淡い期待を見出してはせつない気持ちになった。

 

ファンタジックな設定ではあるものの、現実味のない口約束を交わすという甘さも頼りなさもぎゅっと詰まっていて、きっとこれも忘れ去られてしまうのだと分かっているだけに、約束が約束を交わすだけで終わればいいのに、完結してしまえばいいのにと思ってしまう。

 

確かに「約束を果たす」という形では叶えられなかったかもしれないけれど、由希と春由がまた出会うことで約束の内容が実行されていくのを見ていて、きっと形だけの約束も由希にとってはまた新しい一週間を過ごすための指針だったのではないかと思う。

 

 

「いや、ユキの匂いだよ」

物語が佳境に近づくにつれ、どんな結末を迎えるのか気になった。

予定調和みたいなハッピーエンドもどうしようもないせつなさが残るような結末も受け入れる心持ちでいたけれど、何よりも彼らの電話越しでの最後のやり取りや過ごしてきた時間に見出したものが何よりも尊くて。

読み切った後では、これでよかったという思い、これでよかったと思わなければきっと誰も前に進めない、という思いでいっぱいになった。

 

今はもう忘れてしまったけれど、思い返せば誰かの影響があったから、ということがきっと私にも多々あって、そういった数えきれない誰かによって今の私は立たされている、良くも悪くも。

きっとそういう影響って消そうと思っても消せはしなくて、記憶には残らないけれど私がこの世にいる限りずっと残り続けるものなのだと、改めて思った。

 

春由の記憶の中にも由希は残らないけれど、猫を埋めたエピソードはもちろん、陸上部に打ち込んだことも何もかも「事実」として彼の中に残り続ける。

記憶に残らないということを「せつない」と思うか、「しかたのないこと」だと思うかでこの作品を読んだ後に抱く思いというのも変わるのかもしれないけれど、私はせつないながらもどこか晴れやかな気持ちだった。

最後の最後で由希がちゃんと世界を愛しく思えたという事実が私にとって何よりだった。

 

 

折よく、桜の盛りの頃に読んだということもあって、象徴的に登場する桜や春にまつわる描写と現実をついつい重ねてしまった。

きっと、こんな日和のことを彼らは。