『ラメルノエリキサ』 渡辺優
昨年の読書生活の中で、もっとも運命的な出会いを果たしたうちの一冊、『自由なサメと人間たちの夢』。
今回はその著者、渡辺優さんのデビュー作である『ラメルノエリキサ』。
なんとなく口の中で転がしたくなる、意味は分からないけれど気持ちいい言葉、「ラメルノエリキサ」。(※これは本の内容に関係のない個人的な感想です)
自分がすっきりしたいがために復讐することに執心する女子高生、小峰りな。
なんというか、この作品を映像化したらバイオレンスさが際立ってしまいそうなのだけれど、どこか熱っぽく現実離れした彼女の語り口や周囲の人物の言動があまりにもシュールで思わず笑みがこぼれてしまう。
幼い頃から復讐の対象になっていた姉の言葉を守って、ハンムラビ法典に則り復讐し過ぎないことを信条としていることや、夜道で切り付けられた際に犯人の背中に「お前絶対ぶっ殺すからな!」と叫ぶところとか。
そんな犯人のつぶやいた不思議な言葉「ラメルノエリキサ」を手掛かりに犯人捜しをする中、逮捕されてしまう前に自らの手で復讐したいがために、警察の人に「ラメルノエリキサ」というワードは伝えないことはおろか、「残念ながら」という言葉の端っこをとらえてまだ捕まっていないことを喜ぶあたり、どう考えても狂気すぎる。
何が起ころうとも物語を通して最終的には決してめげない諦めない、復讐に対する彼女の姿勢に、一周回って尊敬の念すら抱きつつある。
私の一押し場面は、スタンガンを手にすることを自分自身で正当化するところ。
女子高生がスタンガンを意気揚々と手にすることや自宅にスタンガンがあることを姉は既に知っているということはさておき。
スタンガンはただの保険というか、お守りみたいなもの。説明書にだって書いてあった。これは護身用です。
p.116
絶対で護身用だけでは終わらないことがありありと伝わってくるし、このあわよくば感とリズムの良さがなんだか心地いい。
世に遍く存在する「これは護身用です。」の中で、世界でいちばんすき。
そして、ここまで幾度か触れている主人公の姉ですが、彼女もなかなか振り切れてて、私の想像を遥かに越えてくる。
ネタバレになってしまうので詳しくは言えないけれど、最後のあの場面。
いっそ微笑ましく感じてしまう。......微笑ましくない????
また、この姉妹と母親の在り方というのも物語が進行していく中で語られるのですが、その随所に「毒」を見出して、ふわふわと高熱を出したかのような心地で油断していたら急に冷や水を浴びせかけられるような気持ち。
そんな風に主人公のりなの言動や物語に振り回されながら息つく間もなく一気読みでした。
一歩引いて眺めてる分には、キャラクターとしてはすきすぎる、りなちゃん。
今月末にはまた渡辺優さんの新刊が出るようで、買ってしまうかもしれない......。
地下アイドルの魅力に引き寄せられた人々の物語ということで、『自由なサメと人間たちの夢』みたいにそっと心の隙間に差し込むような物語なのか、今回みたいなジェットコースターみたいな話なのか、それともまったく雰囲気の違う話なのか、もう楽しみ。
渡辺優さんの扱う地下アイドルってだけで、どんな物語になるのかわくわくしてしまう。