ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『本のエンドロール』

『本のエンドロール』 安藤祐介

本のエンドロール

 

奥付は、本のエンドロールだ。

(略)

作者、出版社の編集者や営業・広報担当、印刷会社や製本会社の人々、取次の人々。多くの努力の結晶が書店に辿り着き、こうして並んでいる。

p.138-139

 

 

読書好きが高じてこうして読んだ本の感想を書き散らすブログをやっているものの、本がどのようにして私の手元に来るのか、ぼんやりとした知識しかなかった。

作家さんが文章を書いてなんどか編集さんとやり取りをし、校閲を経て、本の形として取次を通して全国の書店に運ばれる、程度の。

今回、この『本のエンドロール』で主に描かれていたのは印刷会社で働く人々。

僭越ながら、印刷会社で実際にどのようなことが行われているのかほとんど知らなかったが、今こうして手に取っている本がこんなにたくさんの人の「仕事」で出来上がっていることを物語を通して知ることができて、本の手触りや印刷された文字のひとつひとつ、何を見ても胸が熱くなってしまう。

 


本のエンドロールができるまで

 

このようにこの作品ができるまでの過程が動画としてまとめられているけれど、『本のエンドロール』を読み終えた今となっては、この工程のどれをとっても感慨深い。

大きな機械や紙束を扱う過程もいとも簡単そうにやっているけれど、私たちが家庭用のプリンターで印刷するのとは違って、繊細な技術や経験が必要とされるということも、今の私になら分かる。

改めてその道のプロフェッショナルたちの仕事・思いの結晶が、今こうして私の目の前に本が届けられていると思うと思わず鳥肌が立ってしまう。

 

 

 

作中では、斜陽産業と言われる中、本を造り続ける印刷会社が舞台ということもあって、できるだけ本に対する理想を叶えたい営業と採算や印刷機の稼働率を重視する会社との意思の食い違いが多々あって、修羅場を迎える度に冷や冷やとしてしまう。

また、この営業の彼、なかなか抜けたところがあって「なんでもっと早く相談しなかった!」と叱責される度に、ひえー、と私まで背筋の凍る思いに。

 

印刷会社はただ言われた通りに本の形にするだけだという意見もある中、「印刷会社はメーカーです」と言い張る彼の、出版社だけでなく印刷会社も一丸となってよりよい「本」を生み出そうとする姿勢に周りの人間も感化されていく。

作家や出版社に無理難題を吹っ掛けられても決して妥協せず、まさに本を生み出す一員として作品に向かい合う。

特に、ある作家の要望に対し、電子書籍も紙の本も否定せずお互いの良いところを引き出そうとする場面は非常に心が躍った。

 

 

営業だけでなく、印刷工場で働く職人も描かれていて、専門用語も飛び交う中、移ろう時代の中で仕事に対する思いの変化や見た目以上に細やかな気遣いが必要な仕事ぶりが描かれていて、そうと知ると思わず目で追っている文字や本のカバーを撫でたくなってしまう。

他にもパソコン上で版を組むDTPオペレーターやカバーデザイナーなど、本の奥付には名前は載らないけれど、私の知らないところでこれほどまでにたくさんの熱意が込められて作品がつくられるのだということに、改めて驚くとともに感心してしまう。

もしかしたら、私は今、ものすごく贅沢なものを手にして読んでいるのではないだろうかとは思わずにはいられない。

 

 

 

また、この『本のエンドロール』の「エンドロール」には、まさにこの作品らしい粋な計らいがされていて、何故だかそこで涙がこぼれそうになってしまった。

 

私にとって本は今や切っても切れない関係にあるけれど、普段私が気に掛ける必要がないくらい、いつも一定以上のクオリティをもって世に本を送り出してくれる人たちに対して本当に心の底から感謝の念でいっぱいだ。

私が本を好きになったきっかけになった作品も、とてつもなく衝撃を受けた作品も、心の支えとなっている作品も、あの作品もこの作品も、どれも同じように思いが込められて私のもとに届けられているという事実に、より一層本当にこんなたくさんの本に出会えて私はしあわせものだというふくふくとしたあたたかい気持ちがわいてくる。

 

 

こうしてこの作品に出合うことができて、きっと私は今まで以上に、本が好き。