ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『お隣さんは小さな魔法使い』

『お隣さんは小さな魔法使い』 有間カオル

 お隣さんは小さな魔法使い

 

有間カオルさんが描く魔法使いの物語ということと、西島大介さんのキュートな表紙イラストに、半ば反射的に手に取った作品。

ひとまず、有間カオルさんの『魔法使いのハーブティー』みたいな優しい雰囲気の物語がすきな人は、こんな感想記事今すぐ閉じて、なんの先入観もなしに読んでみてほしい......。

ハーブの知識が豊富で植物や園芸に関して精通しているという、『魔法使いのハーブティー』で描かれていた魔法使いと、今回の『お隣は小さな魔法使い』で描かれている魔法使いは、まったくと言っていいほど同じタイプなので、是非に。

 (さらに作中でちょっぴりだけ『魔法使いのハーブティー』に関して言及されているのです!)

 

 

shiyunn.hatenablog.com

 

 

 

あらすじ

冴えない男子大学生、保科優一の隣室に越してきたという自らを魔法使い見習いと称するハーフの可愛らしい10際の女の子、シャルロット。 

気が強くちょっぴりおませなシャルロットに言われるがまま、夏休みの間、優一はシャルロットに付き合うことに。

魔法使いの修行として、誰かのヘルプサインである結ばれた銀色のリボンを街中で探し出し、その人が困っていることを解決し3本のリボンを集めるのだという。

始めは乗り気でなかった優一もシャルロットとともに時間を過ごすうちにすっかり彼女のペースに乗せられてしまう。

明るく元気なシャルロットの言動にほっこりしながらも、時折差し出される紅茶やハーブティーが何よりもあたたかくて優しい物語。

 

 

ハーブの香りとおませな小さな魔法使い

 シャルロットの背伸び加減と優一の振り回される姿が微笑ましくて微笑ましくて。

そして小さいながらも魔女見習いとして、ハーブや植物に関する知識を披露するシャルロットに思わず感心してしまう。

相手の調子を慮ってハーブティーを淹れるとか、樹木とやり取りをするとか、そういった「魔法使い」がなんとも私の好み過ぎて。なんなら私も魔法使いになりたいし、既に自身のオリジナルブレンドをいくつか考えたというシャルロットに弟子入りしたいレベル。

 

元気のないハナミズキの木をみて「ちょっと寂しさに疲れているだけなんです。この家の主人と同じです」という彼女の台詞がすき。

そうやって人の心の機微にも聡いシャルロットと曰く下僕や使い魔である優一によって色んな人が救われていって、それが巡り巡って優一にとっての日常も鮮やかにしてゆくのが本当によい。

私も、シャルロットみたいに、とはいかないまでも、誰かのためを思ってハーブティーを淹れられるようになりたい。

 

 

3本目の銀のリボン

 ※以下、ネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

 

シャルロット親子は本当に隣に住んでいるのかということと、優一が抱える秘密に関して、所々で触れられ仄めかされるのですが、それが明かされるのは本当に最後の場面。これも本当にあたたかかくて。

実は読みながら優一に関しては少しだけ危なげな印象を抱いた。

シャルロットに強引に言い含められながら優一の部屋に人を招く場面、掃除の手伝いに来たシャルロットの「本当に優一の部屋はシンプルですね」に対する地の文での優一のことば。

つい最近、死ぬ気で断捨離を実行した俺の部屋はいたってシンプルだ。

というもの。

普通だったら死ぬ気≒本気と捉えられる文章だけれど、読んでいてひやりとしたのを覚えている。

ここまでの描写できっと優一の危うさを感じていたのか、もしかしたら優一は本当に死ぬ気で身辺整理をしたことがあるのではないかと思ってしまった。

それまで決定的な描写はなかった(はずな)のにそんな優一に不穏なものを感じていた。

 

だから優一が自殺を考えていたと明かされた時には、ああ、やっぱりそうなんだという思いが強かった。

だからこそ、シャルロットの最後の言葉が本当に染み渡る。

「優一は悩む必要なんてありません。やらなければならないことがたくさんですから、迷っている暇なんてありません」

p.231

 今までの銀のリボンをめぐる人助けが優一のためでもあったこと、シャルロットと過ごすことにより優一にはちゃんと生きてなければならない理由、死んではならない理由ができたことに心がじんわりとする。

そうして最後に優一に差し出されたカモミールのミルクティーの味はきっとどんなものより優しいし、まるで魔法のように優一のさび付いた心をあたたかく溶かしてあるべき形になおすはずだ。

そうであるに、違いない。

 

 

なんでもないように、「擦り切れてしまった」人の心を少しでも軽くするようなハーブティーや紅茶を淹れられるような人でありたいし、

そうやって、何気なく差し出された紅茶の優しさをちゃんと感じられるような私でいたい。