『バベルノトウ 名探偵三途川理 vs 赤毛そして天使』 森川智喜
講談社タイガが立ち上げられる前に講談社文庫から刊行されていた作品も含め、今回で6作品目となる名探偵三途川理シリーズ。
サブタイトルにある「赤毛」こと高校生探偵・緋山燃が登場するの、実は久しぶりなのでは......?
相変わらずの設定をこれでもかというほどに使い倒すミステリ要素と、掴みどころのない妙にハイテンションなキャラクターたちに、今回も首ったけな私。
今回の設定は、対象者の言語が実在しないあやふやなものになってしまう、というもので、突飛でなく論理的にちゃんとその言語体系を解体してゆく様に唸るばかり。
今回のキーとなるのは、適当なランダムな発語になるということではなく、誰も使用していないだけで、ちゃんとある一定のルールに則った言語であるということ。
三途川理の一見掴み所のないようで、筋の通った物事の捉え方は、本当に丁寧で(人格以外は)本当に尊敬する。
あらすじ
地上で遊んでいた3人の天使たちは、力の使いすぎで天界に帰る力まで使い果たしてしまう。
休息を得るべくひと気のない高い建物の屋上で休んでいるところを、その建物の所有者である男性、椿に見つかってしまう。
時間を稼ぐために彼にかけたのは、「言語混乱」。
もと起業家の椿を助けるべくして呼ばれたのは、緋山燃と三途川理。
時間を目一杯稼ごうと事の成り行きを固唾を飲んで見守る天使のユニカルと、探偵2人の推理合戦がはじまる。
天使のユーちゃんの言葉回しが癖になる
ひとまず本編置いておきまして。
天使のユニカルことユーちゃんの言葉回しが癖になる。まじベルベル〜。(ベルゼブる。災難に直面した時などに使うものと思われる)
色んな物語の中で、様々な天使と出会ってきたけれど、頭ひとつ飛び抜けて奇抜かもしれない……。
言語混乱をかけて人間の悩むさまを見てはしたり顔で喜ぶ彼女ですが、特にp.187からp.190にわたる喜びようの、あまりの主張の激しさに思わず笑ってしまいました......くやしい。
なんていうか、ブログでは説明しづらいので、件の部分を実際に手に取って読んでもらいたいのですが、「なにがやりたいんだよ!!」ってなるような感じの笑いでした、はい。
きらいじゃないです、むしろすきです。
しばらく私の脳内でベルベルゥ! って言うの流行りそう。どうしよう。こまる。
あわよくば口に出しそう。まずい。
まさに言語混乱ってやつだな!?!?
※以下、一部ネタバレを含んでいます。未読の方はご注意ください。
未知の言語を前に2人の名探偵は
椿の口から飛び出す未知の言語を前に、対応する様子を見ていると三途川理の方が一枚上手に思えました。
まず、「何」という疑問詞にあたる言葉を引き出して、そこから具体名詞を羅列し、2語文、3語文で意思疎通を試みるプロセスには、なるほど……と納得。
その後、具体的でない感情などを表す言葉について共有する難しさにも触れるような、本当に隅から隅まで設定を使うところが、私がこのシリーズをすきな理由のひとつ。
それを逆手に三途川理が言語混乱かけられて、緋山燃に罵詈雑言吐いたところ、それだけはしっかり燃にキャッチされてるところには、思わずふふっとなってしまいました……。深刻な問題を前に、小学生みたいなやり取り。
極悪探偵、世にはばかる
この「極悪探偵」探偵という肩書き、裏表紙のあらすじに書かれてるのが、なんていうかもはやおもしろい。
緋山燃は、高校生探偵って書かれているのに……。
燃に勝ちたい、燃を出しぬきたい、あわよくば失落させたい一心で、早急な事件解決そっちのけで現場をかき乱す理。
多分、初めて読むミステリで、こんなキャラクターが出てきたら、ちょっと馴染めないな……と思うかもしれないけれど、もはや6作も付き合っている私からすると、それでこそ三途川理! と言いたくなる。
(6作、と言ってもシリーズ序盤はだいぶ常識人装っているけれど、)
本当に最後の最後、息も絶え絶えなのに燃に対して勝利宣言を口にするあたり、もう流石は、我らの極悪探偵、三途川理! と言ったあたり。
ライバル視されて、ただ自身に勝ちたかっただけ、という魂胆が最後には燃に見え見えで、推理合戦勝敗よりも身の案じられてるあたりも、三途川理の滑稽さが上手く現れてて、私としては非常に高ポイントです。
ええ、毎度シリーズ感想書くたびボロくそ言ってますが、もちろん愛してますとも、三途川理。