『そして、アリスはいなくなった』 ひずき優
※当感想記事はネタバレを含んでいます。未読の方はご注意ください。
織川制吾さんの『先生、原稿まだですか!』を手に取る際に、同じく集英社オレンジ文庫の新刊として面陳されているのが目に入ったのがきっかけで。
あらすじ
詳しいプロフィールは明かされることなく伝説的な存在となったネットアイドル、アリスは、ある日急に活動を辞めてしまう。
そんなアリスの未公開動画が高校のIT教室のパソコンに保存されているのをひとりの女生徒が発見する。
その動画をきっかけに、アリスの正体、解散の本当の理由が明かされていく。
アリス結成から解散に至るまでに隠された真実には、複数の人間の思いがやりきれない程に複雑に絡み合っていて――最後にはそれが原因で「彼女たち」は自分たちの居場所を失ってしまう。
崩れゆく彼女たちの居場所
「小鳥遊アリスはもういない。僕がこの手で葬ったから」
冒頭のアリス解散の発端となった原因を突き止めた場面でのこの歩の台詞に、思わずひやりとしてしまう。一体、どういうことだろう、と。
このあと時系列に沿って結成から解散までの経緯が明かされてゆく中で、この台詞の意味が分かる時をずっとそわそわと待ち続けていた。
有り体に言えば、4人の男女が恋愛感情を拗らせ、それ故、小さな綻びによって自らの居場所を粉砕してしまった物語。
じわじわと関係が崩れてゆくのを、どうしても目を離すことができなくて、思わず一気読みしてしまった。
なんでこんなに私を惹きつけたのだろう、と読み終わった後、ぼんやりと考えてみた。
こういう恋が拗れていくのが特別すきというわけでもないし、好きな人を巡る激情を傍から見ているのがすきというわけでもないし......。
多分、多角関係が描かれているだけなら、私は単純に対岸の火事を眺めるような気持ちであっさり消化してしまっていただろう。
私が惹かれた理由――それは、アリスの活動に関わる4人全員がアリスでいることに「都合のよさ」を見出していて、自身の本当の思いと向き合うのを諦めていたからなのだと思う。
そんな彼、彼女たちのやりきれなさに、心が柔く締められてしまったからなのだと。
なんていうか、そういう諦めの滲んだまなざしに弱いのです。
みのりの前向きな気持ちが裏目に出てしまうところも、
歩がみのりの一番にはなれないと頭では分かってるところも、
梨緒の歩に対する献身的な思いが決して実ることがないところも、
弾の友情を大事にしようとする気持ちが報われることがないところも。
アリスの役割
そんなアリスの解散を経て、精一杯傷ついたあとで、彼らは少しだけ大人になる。
最後にはどこか晴れ晴れとした彼らの顔が浮かんで見えそうなくらいだった。
アリスはここでおしまい。
物語の終盤にある、何でもないこの一文に、なんだかぱちん、と魔法がはじけたような、おとぎ話が終わりを迎えたような気持ちになる。
そこでようやく、アリスでいることは通過儀礼のようなものだったのかもしれない、と思うことができた。
いつかは、現実から目を逸らしてアリスとして活動するという庇護から卒業しなければならなかったのだと。
幼い子が、子供向け番組から卒業していくように、彼らにはただただ「やさしい」アリスの存在が必要だったし、最後には誰かによって壊される必要があったのだと思う。
痛々しい思いで読み進めていた私の彼らのこの先を案じる心配に似た思いも、いい意味で杞憂に変わる。
「アリスはここでおしまい。」
この一言で何もかもふわっと昇華されてゆくカタルシスは本当に、一連のアリスの顛末を通して彼らの感情を汲み取ってきたからこそ得られるものだと思う。
表紙イラストに惹かれたその理由は
ここからは完全に余談。
ここ最近は、手に取った小説のイラストレーターさんの名前も欠かさず確認するようにしていて、好みのイラストレーターさんは割かし記憶しておくようにしています。
今作品を担当されている佐原ミズさんの名前を見たとき、確かに見覚えはあるものの、どの作品で見たのかすぐには思い出せず、検索してみることに......。
そうしてヒットしたのは、私の大好きな作品のひとつ。
ほしのこえに関してはもちろん原作であるアニメーションも観たし、ノベライズも読んだのですが、この漫画の描かれ方とか雰囲気がたまらなくすきで今でもたまに読み返します。
今までイラストレーターさんの名前としてインプットされてなかったので、脳内検索ですぐにヒットしなかったんですね。
こうして本を介して、色んな作品が繋がっていく瞬間が本当にたまらない。