ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『先生、原稿まだですか! 新米編集者、ベストセラーを作る』

『先生、原稿まだですか! 新米編集者、ベストセラーを作る』 織川制吾

先生、原稿まだですか!  新米編集者、ベストセラーを作る (集英社オレンジ文庫)

 

 

以前に今作と同じく集英社オレンジ文庫から刊行されている織川制吾さんの『ストロベリアル・デリバリー』心撃ち抜かれ、今度は本にまつわる物語が刊行されるということで、これは読まねば、と。

 

 

『ストロベリアル・デリバリー』 - ゆうべによんだ。

 

 

決して大きくはないけれど兼ねてから夢だった編集者として、出版社に入社することができた平摘栞。

フィクションに価値を見出さず、早く結婚して身を固めるよう口うるさい父の反対を押し切り大見得を切って東京に出てきた手前、父を説得するためにも自身の手で100万部を超える作品――ミリオンセラーを生み出すことを目標に掲げている。

 

 

昨今のこういった出版業界ものの小説はどれも、現代の状況を反映してか、全盛期に比べて失速した様子が描かれているように思います。

作中、近年刊行数は増え薄利多売にシフトしつつあり、いい本もたくさんあるのに埋もれてしまうと、栞とある作家が話す場面がありました。

「口コミを費用のかからない、都合のいい魔法だと思っちゃいけない」

栞に対してのこの言葉になんだか私も思わずはっとする。

いち読者でしかないけれど、なんとなく「いい本」は勝手に誰かのもとに時間とともに広がっていくだろう、というような心づもりでいた。

口コミで広がる、というのも結局運の要素が大きいのだと、改めて思い知る。

 

「それでも......腐らずにいい本を作り続けるしかないと思います。それに、いい本は人に届きます」

そんな中、この栞の真っ直ぐな台詞はとても心強い。

編集として栞は、いい本を作り続けるしかない、という。

結局は作家、編集、取次、書店員、読者、立場は違えど、「いい本」をできるだけ多くの人に届けたいのは同じなのだと思います。

読者として私ができることのひとつは、多分こうして、「なんとなくいいな」と思った本やものを、ちゃんと私なりに掬いあげることなのだと、信じている。たとえそれがか細いものだとしても。

 

 

 

またこの「いい本」に関して、別の場面で「一冊でも多く売れればいい本なのか」と栞が問いかけられる場面がある。

今回、栞はひとつの作品を巡って、センセーショナルな結末を取るか、その作家らしさを前面に押し出した結末を取るか編集として決断を迫られる。

 

私も書店に何度か足を運んでいて、確かに「意外な結末」を迎える物語は持て囃されやすい、と感じることがある。

その他にも、似たような題材を扱ったり、表紙だったり、タイトルだったり。

読者の私としては、その中からただ気になったものをピックアップしていくだけなので、特段、「売れ筋」に寄ってしまうことに否定的な気分はないのだけれど、きっと作家や編集にとっては私が思う以上に切実な問題なのだと思う。まさに死活問題なのだろう、作家が飢えるか、出版社の経営が傾くか。

ついさっき、否定的ではない、とは言ったけれど、決して妥協はしてほしくないな、と思う。

もちろん、多少折り合いをつける部分はあるだろうけれど、作家も編集も「これしかない」と思ったものを、私もこれしかないのだ、と胸を張って言いたい。

 

 

 

......と、やや堅いお話なのだろうか、と思わせるような、ここまでの感想文ですが、主人公の栞ちゃんのガッツは尋常じゃないし、彼女を振り回すことになる御陵或という作家はあまりにも曲者すぎる。コミカルな要素もたっぷりです。

顔合わせの際に、ムカデのかき揚げを出されてもなお、作品を書いてほしいと頼み続ける栞ちゃんの根性たるや......。

 

それから酒癖悪いながらも、ちゃんとそれを好機に変えるあたり、日頃の雑草根性が生きてる感じする......。

なかなか思うように成果に繋がらず「残念さ」が垣間見えることも多々あって、特に喧嘩の果て、父に締め落とされて気絶するエピソードは、数ある残念エピソードの中で群を抜いていると思う。

 それでも、多分、何事にも一生懸命だから、彼女の周りには人が集まるし、色んな人に好かれるのだと思う。

 

 

 

 

十分に続編の余地を残した終わり方をしたので、続きが刊行されることがあればぜひ読み続けたい。