『おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱』 オキシタケヒコ
初めて読む、オキシタケヒコさんの作品。
もともとtoi8さんのイラストやネット上の評判で気になって同著の『筐底のエルピス』の1巻を大事に大事に積んであったのですが、もだもだしているうちに別の新シリーズが始まってしまうという恐ろしい事態に。
単行本を積んでるうちにいつの間にか文庫化されてしまうくらい恐ろしい。
おまけに、今回の『おそれミミズク』も評判がよさそうときたものだから、さあ大変。
Twitterで講談社タイガのアカウントをフォローしていると、感想がちらほら流れてくるのですが、その大半が「怪談、ホラーかと思ったらSFだった!」と摩訶不思議なことを言うものだから、これは是非読んで確かめなくては、と。
結論。
土俗ホラーかと思ったら、SFだった!!
しかもお話としてもすごくよくできてる.....。
読書を好きになった頃に伊坂幸太郎さんの作品ざくざく読んでいたので、ちょっとやそっとの伏線じゃびくともしないからだになっていた私でも、すごいわくわくするくらい色んな出来事が密接に関わり合っていて......。
※以下、何がネタバレになるか分からないので、1周回って気にせず感想書いています。未読の方はご注意ください。
主人公の逸見瑞樹は、田舎の叔母の家で新聞配達をして居候として暮らしている。
そんな彼にはひとつ誰にも言えない秘密がある。
週末になると決まって自転車を走らせ山中の屋敷へ向かう。そこに設えられた座敷牢にはひとりの少女。ツナと名乗る少女に1週間で集めた怖い話を聞かせるというのが、瑞樹もといミミズクにとって10年続く習慣になっていた。
物語の前半はただただこの歪な関係がおどろおどろしい雰囲気で書かれていて、舞台が田舎ということもあって土俗ホラーなのかと思って読んでいました。
ところがミミズクが禁を破ってツナを救い出そうと心に決めたことをきっかけに物語の様子ががらり、と変わります。
怖い、どころか微笑ましい大団円を迎えるので、この雰囲気の変わりようもすごい。
読み進めていく中で、ひらがなだけで題された章がいくつかあって、内容もミミズクの見ている夢という曖昧なものだったのですが、後半になってようやく意味が分かります。
『うまれおちたるかうけうのひとつめざめたること』のタイトルを目にした時には、「かうけう」って何それ、と思っていたのですが今となってはちゃんと意味を持った言葉に。
数ある伏線(?)の中で1番体温上がったのは、瑞樹の夜目が効く設定が存分に生かされた場面、そしてミミズクという暗示が仄めかされる場面。
あんな序盤のパンク修理のエピソードが活かされて、瑞樹のあだ名、ひいてはタイトルにあるミミズクがこんなにも象徴的に扱われるとは思ってもいませんでした。
その他にも前半に彼がツナに怖い話として語った物語の登場人物とも様々な繋がりが見えてくるのも、わくわくしました、ちょっと触れるどころかこれでもかってくらいに関わってくるので。
それから「かうけう」について。
始めその存在が説明された時には、分からないことも多くて言葉遣いも相まってちょっと恐ろしい存在だと感じていました。
ところが最後の場面。
気が付けば「かうけう」にどこかしら可愛げを感じている私。
ツナに関してはとりあえず一喜一憂、疑心暗鬼しすぎてあっちにいったりこっちにいったり。
え? 死んじゃうの? 生きてるの? どうなるの??? と。
とりあえず、どんな展開も急展開なので、告げられる事実、目の前の出来事にワンテンポ遅れて理解と気持ちがついていく。
後半は一気読み、という感想もちらほら見かけたけれど、本当にその通りだった......。
この本、怪談だしSFだし何より主人公の少年の成長物語だと思うのです。
『筐底のエルピス』も読まなくちゃ......こっちはなかなかの後味だと聞いているけれど、さて。