ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『路地裏のほたる食堂』

『路地裏のほたる食堂』 大沼紀子

路地裏のほたる食堂 (講談社タイガ)

 

真夜中のパン屋さん』の大沼紀子さんの新作が講談社タイガから出るということで。

真夜中のパン屋さん』シリーズに関しては、話題になって平積みされているのを見かけて手に取ったのですが、個人的にビブリア古書堂シリーズと並んで今のキャラクターノベルの祖だと思っています。(ビブリア古書堂シリーズもそういえば今月刊行されますね!)濃いキャラクターに、不思議なお店屋さんに、食べ物要素。

([お]7-1)真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ (ポプラ文庫)

([お]7-1)真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ (ポプラ文庫)

 

 

 

今回もその要素がぎゅっと詰まってます。

表紙イラストやタイトルを見てもらえば分かると思うのですが、特に表紙右に描かれている男子高校生。肩から炊飯器を提げている時点で、ただものではないことがありありと伝わってくるはず。

 

 

 

主人公は教育実習のため岐阜に帰省した男子大学生、亘。

自他ともに認めることごとく何かを引き寄せる不幸体質によって、帰省早々、幼い猫が詰められた猫缶を見つけてしまう。

彼の地元では、そんな猫缶が置き去りにされる事件がちょっとした話題になっていたという。

教育実習先で再会した結衣は常識がまったく通用せず、猫缶事件に関する手がかりを知るや否や全力で突っ走ろうとする。

そんな危なっかしい結衣のことを放っておけず、なし崩し的に事件の捜査を手伝う中、実習先の高校で異彩を放つ男子高校生鈴井(炊飯器)がどうやら関係しているようで......?

一方、子供には無料でご飯を提供し、メニューはその日の気まぐれという屋台の主人、神(じん)も事件や鈴井に関して何か知っている様子で。

 

 

 

なんというか、この主要登場人物の中だと亘があまりにもまともな人間過ぎて、同情したくなる。

読み始めたときには、屋台の主人は人情深くて寡黙な人で、(亘に倣ってこう呼ばせてもらうけれど)炊飯器くんはどこか抜けたぽわっとした感じなの子なのかな、となんとなく思っていました。......ました。実際は、この2人ともとんだ食わせ物で神は案外おちゃらけているし、炊飯器くんは狡猾だし......。

そんな2人に対して幼馴染の結衣は、言われたことを額面通りに受けてまっしぐらに行動に移そうとするものだから、亘としても一読者の私としても気が気ではない。

 

 

 

タイトルに食堂、とある通り、ご飯要素もあるお話なのですが、屋台での「音」の描写がとても印象的でした。

冒頭でのお好み焼きを返す時のヘラと鉄板が擦れる音だったり、ソースが熱せられる音だったり。はたまた別のシーンでは熱いものを頬張る時の「ハフハフ」だったり。

普段はそういった匂いや見た目に気を取られて音に気に留めることはほとんどないのですが、こうして小説で読んでみると音の要素も「美味しさ」のひとつなのかも、と。

料理を作る人も音を聞くことはできますが、その音だけを純粋に楽しむことができるのは目の前でその料理を待っている人だけの特権のような気がします。そういう意味では屋台ならでは、なのかもしれません。

 

そしてその屋台の主人、神について。

初めに散々食えない性格、と言ったのですが、子供無料なのには彼なりの信念があって。

「じゃあ逆に訊くけど。腹を空かせてる子供がいたとして、そいつらにメシを食わさない理由って何?」p.109

誰かを助けるのに理由がいるかい? ってやつだ! 

基本色々と雑に言い放つ分、そこに衒いや嘘がなくて、彼の言葉に時々スカッとしたような気分になったり少し救われたような気分になる。

幸せを願う事しかできない、という亘に対して、「いいんじゃないの? 思うだけでも。それだけで、救われるヤツはいると思うし」という場面もお気に入りのひとつ。

 

 

 

 

そして猫缶事件、と言っても『真夜中のパン屋さん』を読んでいたのでおどろおどろしい結末にはならないだろうと安心していたのですが、その予想通り、事件の先には「優しさ」があって。

 犬に比べて割と小説の中では猫って悲惨な目に合いがちな気がします。

『向日葵の咲かない夏』だったり『アヒルと鴨のコインロッカー』だったり『少年Nの長い長い旅 1』だったり......。

(日本に野良犬はほとんどいない、というのもあるかもしれませんが)

 

親に対する義理立てのような気持ちで教育実習に臨んだ亘だったのですが、本当にふんわりとしたあたたかい結末でした。作中に結衣と交わした「思い出すとき、嘘を吐く時の目線の動き」もいい感じに伏線となって、最後に本心が垣間見える感じがほっこりする。

亘がこの先、教師になるのかどうかは分からないけれど、こんなに刺激的な2週間の実習を経てしまったら離れがたいに違いだろうな、と思う。表面上は嫌々結衣に付き合いながらも、まんざらでもない亘のことを想像するとちょっぴり可笑しい。

 

 

 

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

 

 

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

 

 

少年Nの長い長い旅 01 (YA! ENTERTAINMENT)

少年Nの長い長い旅 01 (YA! ENTERTAINMENT)