ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『タイムカプセル浪漫紀行』

『タイムカプセル浪漫紀行』 松山剛

タイムカプセル浪漫紀行 (メディアワークス文庫)

 

 

メディアワークス文庫×肋兵器さんのイラスト」ということで、書店で見かけた際、即座に『魔法使いのハーブティー』が頭の中に浮かび、あれよあれよという間に。

shiyunn.hatenablog.com

 

 

肋兵器さんと言えば、『文句の付けようがないラブコメ』のイラストと同時にコミカライズも担当されいて、この漫画の方も世界観はそのままにヒロインのいろんな表情が見られてとてもよいのです......。  

 

 

 

 

メディアワークス文庫は何かと雰囲気買いジャケ買いしてしまいがちなのですが、あらすじ読むと一見どれも似ているようで、本文読み進めていくと随所に作者のちょっとした好みが散りばめられているところが本当にたまらなくすき。

 

 

主人公は父と同じく考古学者を夢見る大学生、英一。

しかし遺跡ねつ造疑惑により父の考古学者としての名はすっかり落ち、英一は考古学者になる夢を捨て去ろうとする。

そんな折、10年前に亡くなったはずの幼馴染の少女、明日香が当時と同じ姿で英一の目の前に現れる。

何事もなく当時と同じように接してくる明日香に戸惑いながら、言われるがままにタイムカプセルを探しに地元へ戻ることになる。

 

 

 

とりあえず明日香ちゃんが、まあ元気でよく食べること。

考古学者の息子ということもあって英一とは幼い頃に出土品のレプリカを作って遊んでいたらしいけれど、想像してみるとなんだかマニアックでふふってなります。

 

スカシカシパン英語: Sand dollar学名Astriclypeus manni)は、タコノマクラ目スカシカシパン科に属するウニの一種。いわゆるカシパン類で、体に穴が開いていることからこう呼ばれる。

スカシカシパン - Wikipedia」より

とりあえず明日香ちゃんのおかげで、この摩訶不思議な生き物が私の頭の中の辞書にインプットされました。

こういう摩訶不思議生物にどうしようもなく心ときめいてしまう。

有川浩さんの『空の中』のヒロインの佳江ちゃんの気分。

空の中 (角川文庫)

空の中 (角川文庫)

 

 

 

 

タイムカプセルの中身と、英一は忘れてしまった明日香との約束が物語上大きな意味を持つことになる。

それこそが明日香ちゃんがこうして英一の前に姿を現した理由にあたるのですが、彼女同じ時を過ごすうちに英一は父の件で目を背けていた過去の日のことをひとつひとつ思い出してゆく。

 

ふと、夢を持ち続けることと諦めてしまうことはどちらが楽だろう、幸せだろう、と考えてしまう。もちろんどんな「夢」か、にもよると思いますが。

英一のように幼い頃に抱いた夢は十中八九叶わないものだと、私は思っている。

そういう風に、どちらかと言えば悲観的に生きているので、父に憧れて考古学者を目指し、ねつ造疑惑によって失意し夢を捨てようとしまえるほど純粋な英一が少し羨ましく思う部分もある。そして、もったいない、と。

 

そして、物語の上で「幽霊」が登場する理由は決まって幽霊自身の願いではなく、誰かのための願いであって。

そんな風に英一の夢は、自分で勝手に諦めてしまっているだけで、誰からも否定されていない。

父の件で白い目で見られるのではないかと、びくびくしながら帰った地元でも英一は当時と変わらぬ、むしろそれ以上のまなざしを受けている。

 

 

 

現実の壁にぶつかったわけではないけれど、ふと、自身がやってきたことに意味が見出せなくなったのかもしれない。

それでも、続ける意味を、考古学者を志すに足る理由をちゃんと明日香ちゃんが離さずに持って来てくれて本当に良かったな、と思う。

 

 

父の疑惑で、すっかり落ち込んでみせるほど素直に夢を追いかけていたからこそ英一の前に明日香は現れたのではないかと、私は思っている。