ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『ふたつの星とタイムマシン』

『ふたつの星とタイムマシン』 畑野智美

ふたつの星とタイムマシン (集英社文庫)

 

 

畑野智美さんによる、SF短編集。

ちょうど私が最近読んだSF短編集『美亜へ贈る真珠』と比べると、こちらの畑野智美さんの作品はすごくあり触れた日常の上に成り立っているような気がします。

舞台設定は未来であったり、少しだけ不思議なアイテムが登場したりと間違いなく「ここ」ではないどこかのお話なのですが、登場人物たちの気持ちの動きがすっと胸に馴染む。

なんというか、SFというと重たい印象を受けがちなんですけど、本当にひとつひとつのお話が良い感じにきゅっとまとまっていて、小さなクッキー缶から気軽に取り出してさくりさくりと口にしていくような気分で読み進められました。

多分お話に盛り込まれたSF要素で登場人物の思いだったり関係性が劇的に変わってしまうことがほとんどないからだと思います。どのお話もきっと不思議な能力や道具などなくても、結末はきっと変わらなかったのだろうな、と思う。

それでも、そのちょっとした「不思議」があるからこそ主人公はそのあり触れたもののありがたみに気が付くことができる。そうやって日々のあれやこれやがSFという要素と合わさって最後にふわっと香るのがたまらない。

 

 

 

 

いちばん好きなお話は『恋人ロボット』。

家庭用ロボットが普及し、身の回りでそのロボットを恋人の代わりにする人が増えていく中で主人公は遠距離恋愛中の彼女に思いを馳せる。

一度、友人に勧められるまま高性能なロボットを購入し「アイ」と名付けてともに生活することに。生の人間と付き合う時の煩わしさが一切ないロボットとの生活にすっかり馴染み、愛着すら覚え始める主人公。見た目は人間そのもので、会話に相槌だって打つことができるし、記憶させれば自分好みに調理だってしてくれる。

そんなロボットの存在も最後には遠距離恋愛中の彼女にばれてしまうのだけれど、

「カレーの作り方とか、上書きしておいた。あゆむ君はお母さんの味でも、アイちゃんの味でもなくて、美歩の味だけを好きになって」

と言う美歩ちゃんはたまらなくキュートだし、

そんな美歩ちゃんの身勝手さが、勝手でめんどくさいところがあるからこそ美歩ちゃんが好きなんだと改めて気が付くことのできるあゆむ君も、なんていうか本当によい。”アイちゃんだったら、絶対にそんなことはしない。”

 

寂しいから、寄り添ってほしいから、こちらの理想に近いから、美歩ちゃんが好きなのではなく、きっと美歩ちゃんは美歩ちゃんだから好きなのだな、と思う。

 

ロボットに限らず、色々なものが便利になって生き物として生きていく上で限りなく煩わしさは避けることができるようになったけれど、一見非生産的に見えるものがより一層きらきらと光って見える。

 

 

 

 

 

言い方はあれかもしれませんが、畑野智美さんの作品に出てくる人物の「程よい駄目さ」加減が本当に好きで。

どこか駄目な人というのはどんな小説にも出てくるけれど、畑野さんの作中に出てくる人たちはそれをそれなりに自覚していて、かといってそのことに奢りすぎることもなくて、すごく親しみを覚えるのです。(なんてことを書いたら怒られるかもしれないけれど。)

『夏のバスプール』とかのあの青くてぎゅっとした夏の感じ、すごくすき。

 

shiyunn.hatenablog.com

 

 

 

夏のバスプール (集英社文庫)

夏のバスプール (集英社文庫)