ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『君に叶わぬ恋をしている』

『君に叶わぬ恋をしている』 道具小路

君に叶わぬ恋をしている (富士見L文庫)

 

 

書店をふらふらーっと歩いてる時に、平積みされているこの作品の表紙を見かけて

「わ、なんだか『秒速5センチメートル』みたい!」

と思ったのがきっかけ。

どうしてそんな風に感じたのかよく分からないのですが、今こうして表紙を眺めてみてもなんだか雰囲気が「っぽい」と感じるのです。

 

そうして手に取って、誰が描いたイラストだろうと表紙を開いて確認してみる私。

よもやloundrawさんとは。

画集思わず買ってしまう程にはloundrawさんのイラストが好きで、イラストレーターさん由縁で手に取った本も数知れず。それでもこの表紙がloundrawさんが描いたものだとは気が付きませんでした......。なんというか、末恐ろしや。

 

Hello,light. ~loundraw art works~

Hello,light. ~loundraw art works~

 

 

 

 

 

 

物語の主な舞台は早稲田の町並みに軒を連ねるバー『One Tone』。

8年前に最愛の妻を亡くし、半ば自暴自棄に生きていたバーテンダー伊吹の前に人語を操る黒猫が現れる。

曰く、猫を満足させるようなカクテルを作り続ければ幽霊に会わせることができるという。

 

率直に読み終えた感想を言うと、私の性癖(≠性的嗜好。念のため)ど真ん中ストレートでした。

愛した人がこの世を去って悲しみに暮れる物語は、それこそ探せば世にごまんとあると思います。ただそのどれもが必ずしも私の好みにかちりと当てはまるかというとそういうわけでもなくて。

なんというか、色々と語弊を生みかねない言い方ですが、登場人物にはその悲しみを簡単に消化して欲しくないのです。

故人の手紙だったり秘密だったりが後からぽろっと出てきて、それですぐに前を向けるような人物よりそれでもぐずぐずと引きずり続ける人物の物語の方がたまらなく好きなのです。適した表現が見つからないのですが、ぐずぐずとした物語が好きなのです。

思い出や感情が日々の中で消化されていくことが正常だとは分かっているけれど、そんなものに縋り続けてしまう、純粋とも愚直とも言えるような一種の欠陥をとても美しく思う。

 

そうして思えば、『秒速5センチメートル』みたいだと感じたのはまさに天啓だったし、どちらにも共通したやり切れなさのようなものを、私はたまらなく愛している。

 

著者あとがきにも、そのようなある種愚直で破滅を匂わせるような物語だというようなことが書かれていて、改めて、「ああ。すきだな」思う。

 

 

 

バーテンダーの伊吹の他にも、同じバーで働くバンドマンを夢見ていた暁という名の若い男性が登場するのですが、こちらの彼も過去の恋を引きずり続けている。

私の中ではすっかりもう一人の主人公です。

主に男性陣が打ちのめされるのとは対照に女性陣は強い芯の通った人物として描かれていたのも印象的でした。

あとがきでも触れられているように、男女の恋愛観の違いについて「名前を付けて保存」「上書き保存」と言われますが、この違いは今回の物語で言えば恋愛ごとに関しての「打たれ強さ」のような違いの表れなのかな、とも思ったり。

 

 

 

お酒にまつわる小話があったりコミカルな登場人物もいたりと物語として楽しむことのできる要素は他にもたくさん詰まっていたのですが、何よりも彼らの思いが綺麗すぎてそのことばかりが心に強く残っています。 

  

作中に登場するこのバー、ちゃんとモデルが存在するようで最後の最後に謝辞として店名まで添えられていたのでいつか足を運んでみたい。