『道然寺さんの双子探偵』 岡崎琢磨
『珈琲店タレーランの事件簿』シリーズで有名な岡崎琢磨さんの作品。
記事に残してはいないのですが、タレーランシリーズはすべて読みました。
すぐに色々な物に感化されてしまう私の脳内の「死ぬまでにやりたい細やかな夢リスト」にハンドミルでがりがり挽いて自宅で珈琲を淹れる、というのがある......のだけれど、このまま達成されることはない予感を今からひしひしと感じている。
今回のお話の舞台は福岡。
ちょうど最近読んだ『放課後スプリング・トレイン』も舞台が福岡の街、ということもあり、着々と私の未踏の地福岡のイメージが勝手に出来上がってゆく......。
また「双子探偵」というワードから『名探偵夢水清志郎事件ノート』シリーズを思い出すのは、私だけじゃないですよね......?
道然寺というお寺に暮らす中学2年生の双子、レンとラン。
捨て子としてお寺に引き取られ、育てられたという複雑な事情から幼い頃から様々な感情にさらされてきたものの、現在の生活に不満は感じていない様子。
ただ、ふたりの性格は正反対で、まずは人の悪意を疑ってかかる男の子のレンと人の善意の心を信じようとする女の子のランは、若和尚の一海の身の回りで起こる謎にそれぞれ違った解釈で真実を解き明かそうとする。
お話の構造として、レンの導いた答えが実は間違っており、真実はランの語る通りまったく逆の姿をしていた、もしくはレンとランの立場が入れ替わったその反対、という流れが主なのですが、ふたりの切り口が違うだけでどちらもそれなりに理屈は通っており真実になりえてしまう。
この、少しのさじ加減で謎の様相がくるりと変わるのが楽しい。
また2人の人となりが、中学生とはいえ幼さを感じる描写が所々にあり、「探偵役」のギャップも相まって、「憂いやつめ」と思ってしまう......。
レンの斜に構えながらも、ゲームが手放せないところや、ランのお菓子本位の日常の物事の考え方が。甘党の私としては「梅ヶ枝餅重ね」、気になります。
お寺に住み込みで働いているみずきさんも、とても明るい性格をしていて、語り手である一海と住職の真海とみずきさんと双子の5人で囲む食卓はさぞ賑やかだろうな、と想像してしまいます。
それでもこれは小説なので、最後に種明かしという名の当事者からの答え合わせがあるので楽しく読むことができるものの、現実世界ではどうだろう、と考えると少しこわい。
それにお人好しのランの導きだした答えでその場をおさめておけば、とりあえず大丈夫、というわけでもないのがさらに。
きっと悪意や善意だけで何かを推し量れるほどシンプルにはできてない。
この小説を読んでふと、そもそも悪意も善意も誰かが線引きして割り切りたいだけの区別なのではないかと思ってしまう。実際は悪意の中にもひと匙の善意が混じっていたり、善意が悪意に受け取られたりしてしまうことの方が多そうで。
語り手の一海さんが親のような気持ちで双子のことを見つめるものだから、私もふたりには穿った考えを持たずにいろんなものに触れて生きて欲しいな、と願ってしまう。