ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『今からあなたを脅迫します』

『今からあなたを脅迫します』  藤石波矢

今からあなたを脅迫します (講談社タイガ)

 

講談社タイガから刊行されている藤石波矢さんの作品。

どうやら以前読んだ、『昨日の君は、僕だけの君だった』が今夏に舞台化されるようで。めでたい。

 

『昨日の君は、僕だけの君だった』 - ゆうべによんだ。

昨日の君は、僕だけの君だった (幻冬舎文庫)

昨日の君は、僕だけの君だった (幻冬舎文庫)

 

 

 

どうやらまだ私の中では、藤石波矢さんと言えば『昨日の君は、僕だけの君だった』という印象が強いせいか、前作の静かに波がさざめくような雰囲気と打って変わって、今回の登場キャラクターが生き生きと動いていて、縦横無尽に跳ねること跳ねること。

 

主人公の女子大生、金坂澪のもとに身に覚えのないメモリーカードが届く。

その中には動画が保存されており、ある男の身柄を人質に金銭を要求するといものだった。

......しかし、人質にされている男性の姿も名前も、メモリーカードの送り主がこちらを呼びかける名前も、どれも覚えのないものだった。つまり、人違いである。

それでも、人一倍正義感の強い澪は自らこの不可解な状況に飛び込んでいく。

 

 

まずこの、脅迫屋と名乗る千川のキャラクターが飄々としていて、ふと、伊坂幸太郎さんの作品を思い出して懐かしい気持ちになる。

なんていうか、語感で適当にぺらぺら喋り、妙なこだわりがある感じ。

本当にこの人分かってるのかな......と思いきや、完全にやる時はやるタイプの。

この脅迫屋、っていうのも伊坂さんの『グラスホッパー』の世界に登場しそうです。

(「~っぽい」というような内容のことを感想に書くときに、それが誰かにとって失礼な響きでなければいいなといつも思うのです、ただそういうことにわくわくする、ということを伝えたいのです)

 

こういう飄々としたキャラクター、たまらなくすきなのです。

なんというか、私にはスマートに格好良く映るので、真似したくなる。 

とりあえず、千川の「プリンでもキリンでも俺が買ってやるから」という言い回しは、私の脳内の「いつか言うリスト」に加えておくことにします。

 

 

また澪の、びっくりするくらいに真っ直ぐな正義感に毎度はらはらしてしまう。

どんな相手に対しても、「罪を認めて自首してください」と正面切って言い出すものだから、怖いもの知らずにも程があるよ、と、おろおろしながら読み進めてしまう。

そういう澪の曲がったことが許せない精神は、既に他界してしまっている両親から来るもので、まさに、親譲りの。

それでも、千川からその親の願いは呪いでもある、と言われた時に澪の信念は揺らいでしまうことになる。

そんな澪が悩んでいる折に、事態はだんだんと大きくなっていき、最後にはなんていうかファイナルファンタジードラゴンクエストに登場するラスボスが言い放ちそうな終末思想を持った諸悪の根源が登場して、そうなってしまったら、もうなりふり構っている場合ではなくて。

 

一応連作短編の形でつづられているのですが、どの「脅迫」も最後に繋がっていたのですね。

 

 

こうして感想を書くにあたり、冒頭の方をぺらぺらと見返していたのですが、本当に最初の方に既に<大丈夫。どっちを選んでも後悔するから>という伯母のことばが登場していたのだと気が付き、はっとする。

澪は素直すぎる、という点が玉に瑕ではあるけれど、本当に誰かから貰ったことばを大切にする子なのだな、と改めて思う。