書店に足を運んだ際に、面陳(表紙が見えるように陳列)されているこの作品を見かけて、ふと気になり手に取ってみました。
活版印刷のお話、ということで私の頭の中にはきっと村山早紀さんの『ルリユール』のように素敵なお話に違いないという思いがありました。
『ルリユール』の感想はこちら。
『ルリユール』は製本がテーマのお話でしたが、製本と同じく活字、活版印刷、というのも本好きな私の心をくすぐる……。
活字を拾う、という使い慣れない表現が登場する度に私はなんだかわくわくしてしまう。各話の章扉には活版印刷に使う道具のモノクロ写真が用いられていて、その手触りや重さを想像しながら読むことができました。
活版印刷を用いて、レターセットやショップカードや栞や結婚式の案内状など様々なものが作られていくのですが、安価で手軽なプリントとの違いやそこに介在する思いがすごく好みで。
作品に登場する表現なのですが、一般的に事務作業等で用いられている印刷機は貼り付ける、というイメージなのに対し、活版印刷は刻む、というのがとても印象に残っています。
ことばを、刻む。
それぞれの短編の中で、そうやって刻まれていくことばが暖かさや工夫に満ちていて、きっと私が実際に手にしたならとてもではないけれど捨てられないだろうな、と思ってしまう。
こうして印刷するだけならば容易に出来てしまう現代では、きっと活版印刷は見える形で文字として表す、というより、その文字を残しておくという意味合いが色濃いように感じます。
文字を残しておく、というか、
思いを文字に乗せて紙面に詰める、というか、
例えば、短い小説を書いたとして。
それがそこそこ素晴らしいものだったとして。
もちろん印刷しても、素晴らしさは色褪せないのだけれど、活版印刷ならばよりその小説の色や匂いや手触りを加えられそうな気がしています。
きっとあれだ、料理に似てる。
普段の、自分のための料理と比べて、誰かの為に少し良いもの使って時間をかけて美味しいものを作っている時の感覚と似ている。
それを受け取る、口にする人のことを考えながら丁寧に作り上げていく感じ。
最後のお話の結婚式の案内状をつくるお話も、やむを得ない事情によりいろは歌のように案内の文章を考えることになるのですが、一周回ってそんな茶目っ気のある素敵な案内状を私も貰いたい。
きっとここぞとばかりに「御出席」の御を丁寧に二重線で消して、今までにないくらい几帳面に丸を描くのに。