『晴追町には、ひまりさんがいる。 恋と花火と図書館王子』 野村美月
講談社タイガから刊行されている、野村美月さんによる晴追町の物語、2作目。
1作目の感想はこちら。
『晴追町には、ひまりさんがいる。 始まりの春は犬を連れた人妻と』 - ゆうべによんだ。
前作に増して春近くんとひまりさんの関係に変化があったり、サモエド犬の有海さんの真実に触れるような一節があったりと今後が気になります。
連作短編という形で、各話ごとに晴追町に住む人々にスポットが当てられ、主人公の春近くんと人妻のひまりさん、そしてひまりさんの旦那さんのサモエド犬の有海さんがちょっとした謎や悩みを解決してゆく。
どのお話も柔らかく優しい結末が待っていて、ほのかに甘く暖かいミルクティーがよく似合う。
誰が、優しいというわけではなく、晴追町全体がきっと優しい眼差しに溢れている。誰かがひとりぼっちでいることがないように、そういう風に、きっとできている。
花火のいちばん綺麗に見える丘や電話ボックスや公園のブランコ……何気ない晴追町の様々な場所に春近くんと一緒にスタンプを押していくような気持ちで、私の心の中におさめてゆく。スタンプがいっぱいになるにつれ、私も晴追町が好きになってゆく。
前作にちらりと名前の出てきた図書館王子が主要人物となるお話では、図書館王子がサン・テグジュペリの『夜間飛行』を大事そうにしており、それが物語の雰囲気にとても馴染んでいて、さらに好きになりそうです。
図書館王子での話で、有海さんが王子の代わりに自らすすんで今の有海さんになったのだと取れるような描写があって、ただのサモエド犬だとは思ってはいなかったけれど、どんな経緯で今の形に落ち着いたのかとても気になる。
神さまの使い、のようなものなのかな、有海さんはずっと、サモエド犬の有海さんのままなのだろうか。
人柱、ということばが浮かんだけれど、その響きはこの物語にはひどく不釣り合いだと思うのです。
そして最後の『春近がはじめて空を飛んだ日』というお話。
冒頭にて、後に春近くんが晴追町を離れる表現があり、少しだけ寂しい気持ちになる。なんとなく、このまま春近くんの晴追町での物語はずっと続いていくと思っていたから。
想いを伝えた春近くんとひまりさんの物語がどのように紡がれてゆくのか、続きもとても楽しみです。
有海さんのふわふわな表現がとてもふわふわでふわふわな私。
……出掛け先でサモエド犬、もしくはサモエド犬に似た大きくて白くてもふもふとした犬を見かけると、有海さんだ! と駆け寄りたくなる私。