書店で見かけてふと気になって手に取った作品。
びっくりするくらい読みやすくて、あっという間にぺろりと平らげてしまいました。
著者の方にとってこの作品がデビュー作とは思えない程、馴染みやすい文章で、主食や夜食というよりもおやつがよく似合う。もちろん良い意味で。
そして、私だけなのかもしれませんが、美大という舞台がすごく魅力的で。
私自身、そういう美的センスが皆無で美大という場所が縁遠い場所であるが故にとてもキラキラとした場所を想像してしまいます。
こう、まるで大きなトキワ荘みたいな……。
想いのこもった素敵な作品がたくさん生まれる場所、みたいな……。
……多分、男子高校生が女子校に憧れに似た想いを馳せるのに似ている気がする。
それからどんな分野でも専門用語、耳慣れない言葉に心ときめくので、
よく分からないけど、なんか聞いたことがある気がする! というだけでわくわくしてしまう。
そんな私の偏った憧れが詰まった樫乃木美大にて、主人公長原あざみのまわりで様々な小さな謎が発生する。
目が飛び出るほどの仕掛けが用意されているわけではないけれど、彼女たちの日常にぴったりなささやかな謎がいくつも登場し、私の頭の中の「もしかして」が正解だと分かる瞬間が小気味良い。
謎に直面する度、心細さを感じる度、あざみは携帯電話を握りしめ心の拠り所にしている「カミサマ」に祈る。
もちろん世界観として森羅万象を司る「カミサマ」が存在するわけではなく、あくまでもあざみの記憶の、心の中にのみ存在している。
そんな「カミサマ」の真相も、今回のお話の一貫とした謎として用意されている。
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/04
- メディア: 文庫
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そんな「カミサマ」にまつわる真実も、神と呼ぶにはあまりにもこじんまりとして、すごく身近なところにやわらかくきゅっと収められていて、小さくかわいい手鞠のようなお話でした。
もちろん、美大に足を踏み入れたこともなければ、謎に直面したこともないけれど、その「きゅっとこじんまり感」のせいか、とても物語の雰囲気が身近に感じられました。
あざみ含め、登場人物たち〈カジヤ部〉の面々は梶谷七唯というのらりくらりとした風変わりな研究生に振り回されることになるのですが、摑みどころがなく好きなことをして生きているようで、読んでいて少し胸がすく。
……反面、あざみは梶谷さんの普段見せない内面性を少し垣間見ていて。
既に続編刊行が決まっているようで。
まだまだあざみ以外のキャラクターの表面的でない人となりが気になるので、何もかもがゆっくりな昼下がりのおやつどきに読んでみたい。