『ルリユール』 村山早紀
村山早紀さんの『ルリユール』ということで、きっと素敵な物語に違いないと、居ても立っても居られず単行本を手に取ってしまいました。
ルリユールという名の職業
「ルリユール」という言葉を初めて私が知ったのは、絵本の古本屋さんで『ルリユールおじさん』という絵本に出会った時。
この絵本もとても素敵で、是非本好きの方には一度手に取ってみてもらいたいです。
RELIEUR(ルリユール)はフランスで発展した、手仕事で本を直す、本のお医者さん。
この絵本では柔らかな水彩で、小さな女の子と職人のおじいさんのやり取りや、ルリユールの仕事がとても丁寧に描かれています。
本やさんにはあたらしい植物図鑑がいっぱいあった。という女の子ソフィーの台詞が何よりも愛おしい。
でもこの本をなおしたいの。
こちらの2分ほどのYouTubeの動画を見ていただければ、より、ルリユールの仕事のイメージが浮かびやすいと思います。
ボロボロになった本のかがり糸を外し、糊を丁寧に剥がし、再び丁寧に製本し、表紙をつけて、金色の箔押しをする。
思いのこもった本が、人の手で時間をかけて蘇るまでの過程がまるで魔法のようで。
本とともに再生する人々の物語
『ルリユール』の主人公瑠璃は、夏の間の数日、祖母の家にお世話になることになる。
その際、黒猫工房という名の洋館とそこに暮らす不思議な雰囲気を纏う女性クラウディアに出会う。
洋館やクラウディアの存在が気になる瑠璃は、足を運ぶ度、目の前で本たちが蘇るのを目の当たりにしていく。
ちょっとしたファンタジー要素を含みながら、依頼主たちの抱え込んでいた思いが放たれる度に心が揺れる。
村山早紀さんの作品はいつだって優しい。
本をきっかけに皆救われていき、それを仲介するルリユールというのがとても素敵で。
ただ、本を出版された新品の状態に戻すだけでなく、本の持ち主の希望に沿うように新たに作り変えていく。
本に込められた思いを変えずにそのまま新たに引き継いでいくという作業がとても印象に残ります。
読みながら実家にあるぼろぼろの絵本や図鑑を何度も思い出しました。
本を直すだけでなく、『ルリユール』の物語の中では、絵葉書を冊子として纏めたり、大切な誰かの為のアルバムを作ったり。
そんな風に思いを形にしていく職業に憧れる。
『ルリユールおじさん』にも『ルリユール』にも表現されていたのですが、本当に魔法と遜色ないと思うのです。
クラウディアに弟子入りを志願した瑠璃も、人の思いをしっかりと汲んで、きっと素敵なルリユールになれるはず。
改めて表紙帯のイラストを見ると、瑠璃が真剣な眼差しで箔押しをしていて、はっとする。
たまに本棚から取り出して、ぱらぱらと読み返したくなるような、そんな作品でした。
3月には、晴れて文庫化するみたいなので、是非。
ルリユールという職業の人が本当に存在するなんて、まるで夢のよう。
できることならば、そんな魔法を私も使えるようになりたい。