『下読み男子と投稿女子 〜優しい空が見た、内気な海の話。』 野村美月
ごく個人的なブームなのですが、小説家が登場人物の作品に目がない私。
主人公の男子高校生の青は、親戚のおじの口利きによりライトノベル新人賞の下読みのアルバイトをしている。
二次選考に上げるために数多くの作品に目を通さなくてはならないが、青は将来のヒット作になるかもしれない作品に触れるのも、商業作品としては文章が未熟な作品に触れるのも、とても楽しみにしていた。
そんな中、ある日クールなクラスメイトの氷雪(ひゆき)が、顔文字や記号が溢れたライトノベルを書いている事を知ってしまったことをきっかけに、氷雪の小説のアドバイスをしてゆく。
兎にも角にも、青がとてもよいこ過ぎて。
そして何よりも小説を読むのが大好き。
下読みしたどんな小説にも一生懸命、評価シートいっぱいに良かったところや改善点を素直に書く。
小説賞に応募したことはないけれど、青みたいな人が読んでくれるなら多少の落選も落ち込まずに次に生かそう、と思えてきそうなくらい。
そしてあまりにもシュール過ぎて一周回って面白い氷雪の小説にもちゃんと向き合って、青なりに一生懸命よいものにしようとするのもとてもよい。
氷雪の初稿……壮絶でした。
もし現実で私が見たら、絶句しそうなくらい……。
読みながら、青みたいに下読みのバイトして評価シートに詰め込みたい! と思ったけれど、私は青にはなれなかったよ……。
そんなぶっ飛んだ小説を書くという氷雪のキャラクターではありますが、作品の雰囲気はコメディという訳ではなく、氷雪は野村美月さん作品の登場人物らしいすごくすごく不器用な女の子で。
クラスで氷の淑女と呼ばれ、他を寄せ付けないのも、自分で得たライトノベルの様々な手法を最大限に詰め込んでしまうのも、すべて彼女の不器用さの裏返し。
自分の思いを外に出すことに慣れていない氷雪の話を青が丁寧に聞きながら、氷雪の好きなものをテーマに少しずつ物語を作り上げていく様子がとても微笑ましくて優しくて。
小説を書く理由はひとそれぞれはあるけれど、こんな青と氷雪のように小説に関われていくことができたのなら、それもひとつの幸せのかたちなのかな、と感じました。
あとがきでも触れられていたのですが、文学少女シリーズの心葉や遠子先輩とは違い、小説や物語に対して宿命づけられていない普通の女の子が、小説を通して前向きに変わってゆく様は、ちょっぴり眩しくて。
この作品、シリーズ化しないかな……と密かに願う私でした。