『かなりや荘浪漫 星めざす翼』 村山早紀
主人公の茜音が幽霊になってしまった天才漫画家の玲司や、編集者の美月さんを始めとするかなりや荘の人々に支えながら漫画家を目指していく、『かなりや荘』シリーズ。
茜音が漫画家を目指すことになる経緯やかなりや荘に住まうことになるまでを描いた前回(『かなりや荘浪漫 廃園の鳥たち』 - ゆうべによんだ。)に引き続きシリーズ2作品目。
今回のお話のテーマは好敵手、ライバルでした。
……とはいえ今回の作品内で大きな動きがあるわけではありませんが、それでも茜音にとってのライバル、美月さんにとってのライバル、そして玲司の良きライバルになり得た人物が登場し、次巻以降のお話がとても楽しみでわくわくするような内容でした。
新しい漫画雑誌のもとに漫画家そして編集者たちがどのように切磋琢磨し合うのかと思うと、早く次が読みたくてたまらないです。
美月さんが表現していたようにあくまでも「善人」でありすぎる茜音が、「勝負事」の場で自分のためだけにどれほどの行動を起こせるのかと、ちょっぴり心配してしまいます。
それから出版社の編集の人たちが紙の雑誌が売れなくなってきた時代に新雑誌を立ち上げることについて話をしている場面があるのですが、そこで語られているTwitter等のSNSとの関わり方や情報が伝わるまでの速度に思わず頷き。
「悲しいかな、雑誌や新聞という文化は——そういった紙とインクがもたらす情報は、いまやインターネットには敵わないんだよな」
物語の中ではありますが、出版に携わる編集長がこのような台詞を言う事に、やはり下火なのかな、と少し寂しさのようなものを感じてしまいました。
それでもその後の“本質では負けてないんだ”というひとことに、本好きとしては、ぐっときました。
確かに日々経済規模縮小が嘆かれているけれど、紙の媒体には紙の媒体にしかできない事があると思うのです。
ふと目の端でとらえた思いがけない何かをきっかけに、世界がとてつもなく広がる感じ。
どちらが優る劣るというわけでもなく、電子書籍は電子書籍なりの良さが、紙媒体には紙媒体にしかできない何かがあると思うのです。
後半は茜音の母であるましろさんのお話でした。
かつてのように小説が書けなくなってしまい、死に場所を探す、ましろさんのお話。
かつてお世話になった人、場所を巡るうちにましろさんが失ってしまった何かを取り戻していく感じがとてもやさしい。
甘やかす、というのとは違うけれど昔と変わらず思いを託してくれる人がいるというだけで生きていける感じが琴線に触れる。
きっとそんなちょっとしたことばや思いに生かされている。