ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『ストロベリアル・デリバリー』

『ストロベリアル・デリバリー』  織川制吾

 

ストロベリアル・デリバリー ぼくとお荷物少女の配達記 (集英社オレンジ文庫)

 

 
配達人のイットと少女のイソラが繰り広げる、絵本や童話のようなふんわり不思議な物語。
 
 
 
以前にも何度か触れたように片山若子さんのイラストが好きで、書店の棚やインターネット上で見かけるとつい眺めてしまいます。
今回は集英社オレンジ文庫のTwitterアカウントで初めて『ストロベリアル・デリバリー』の表紙を目にしたのですが、一緒に載っていたちょっとしたPVを見た瞬間にもう、片山若子さんのイラストにときめきを感じずにはいられませんでした(笑)
 
 
 
 
PVでは表紙イラスト以外に小説の各話に添えられたイラストを見ることができるのですが、イットとイソラが木の上で眠っているものや、物陰からこっそり見ているイラストが本当に好みで。
イラストとともに小説から抜き出された会話の一部がすごくいい雰囲気で。
 
 
そんな風に話の内容の如何によらずジャケ買いというちょっぴり失礼で不純な動機で手にした小説ですが、ほろほろと洋酒の効いたお菓子のようなお話が詰められていて、ひとつひとつ包み紙を開けるような軽やかな気分で読める作品でした。
 
 
 
イットやイソラの詳しい素性は語られないまま、2人がいろんな場所へいろんな人へ荷物を預かり届けにいく日常がいくつかの短編として描かれていて、どのお話も「ふわり」とした終わり方をしてまるで絵本のようでした。
 
2人が出会う人々も不思議な人たちばかり。
お互いに500人程の人格が入れ替わり立ち替わるため、もうしばらく目を見て話をすることをしていない男女。
記憶を引き継いだまま1日毎に生まれ変わる人。
人の死なない戦争を続ける大人たち。
龍に嫁いだおっちょこちょい女子高生。
 
 
 
 
もちろん登場人物やお話の雰囲気も好きなのですが、イットとイソラのちょっとしたやり取りが私の中でとても好みでした。
落ち着いた雰囲気のイットがおませなイソラに振り回される感じがもうたまらない……。
しかも彼らのそんなキャラクターと、片山若子さんのイラストがどんぴしゃすぎて、もうあのイットとイソラが動いて話をしているのが目に見えるよう。
お話がとても絵本みたいな感じだから余計にそう思うのか、もう、彼らがどうして本の中から飛び出してきてくれないのかが不思議でたまらない程です。
 
2人にお茶菓子出して、ただひたすらにやり取りを眺めていたい……。
 
 
 
 
 
「私はイットのことが好きよ」
「友達として?」
「もちろんよ。だから、なんならお嫁さんになってあげてもいいの」
「……友達ってなんだっけ」

 

 
中でもいちばん好きなのがこのやり取りなんですが、イソラが「お嫁さん」になるということを分かった上で冗談めかしているのか、本当に友達の延長線上の行き着く先が「お嫁さん」だと思っているのか、どちらにせよ、それをイットに対して得意げに言ってのける様がたまらない……。
具体的なイメージはなくとも「お嫁さん」が素敵できっとそうなったら幸せであるものだと理解しているイソラ……。
そしてそんなイソラを半ば呆れながらも付き合ってあげるイット……。
微笑ましさ以外の何物でもない……。
 
 
 
 
 
どんでん返しや恋愛やミステリ等々「凄まじさ」を持ったとてもパワフルな小説ではないですが、本当にお菓子のように日々をちょっとだけ華やかにするような、そんな小説でした。
 
 
出来ることなら続きを、イットとイソラの物語をもっと読みたい。