『晴追町には、ひまりさんがいる。 始まりの春は犬を連れた人妻と』 野村美月
並行して読み進めている文学少女シリーズの野村美月さんの作品。
文学少女シリーズをまだ「かじった」だけの私ですが、各話の冒頭に挟まれるモノローグや全体的に軽やかながらも登場人物等身大の悩みが見え隠れするような、私の知る野村美月作品の世界観が溢れる作品でした。
大学入学を機にひとり暮らしをすることになった主人公の春近くん。
何事も上手くいかず、ホームシックになり不眠に陥ってしまう。
眠れずに夜中の公園を散歩していた時、白くて大きなサモエド犬の有海さんを連れたひまりさんと出会い、彼女の人柄の柔らかさに春近くんも心をとかしていく。
3/2は出会いの日。
4/14はフレンドリーデー。
4/27は絆の日。
5/23はキスの日。
5/27は小松菜の日。
そして、5/9は呼吸の日で極上の日。
特別でない日はないのだというひまりさんと晴追町での生活がとてもあたたかに描かれていました。
お節介焼きと言われながらも春近くんは、晴追町に暮らす少し不器用な人々と心を通わせていきます。
そしてそんな春近くんのことですが。
過去に好きになった人はすべからく人妻。
遠い所におり滅多に姿を現さないという、サモエド犬と同名の有海さんを夫として慕うひまりさんも例外ではなく、春近くんは惹かれていきます。
人妻好き、というと、
なんていうか、とても生々しい表現になってしまいますが、ひととおり読み終えて、春近くんが人妻に惹かれやすい理由がなんとなくですが分かったような気がします。
春近くんはとても淋しがり。
だから、きっとそんな春近くんの淋しさなんてなんでもないようにすくい取ってくれる、あたたかで柔らかな女性に惹かれてしまうのだと思いました。
息苦しくなりそうな気負いも何もかも解してくれるような。
人妻だから好き、なのではなく、好きになった人が人妻、なのです。
そして読み始める前に思っていた以上に私にとって大切な1冊になりそうです。
わたしに幸せをくれたきみの願いが、全部叶いますように。
ひまりさんの台詞ではないのですが、
こういうの、たまらなくすきです。
全部叶いますように。
の、全部、というところが、なおよい。
読み終えてふと、結末に限って、ですが、私が今まで読んできた中では中村航作品にも似たような雰囲気だと思いました。
恋とかそういうのではなく、広い意味ですきな人の幸せを願わずにはいられないような。
極上の幸せとはいかなくとも、やさしさで溢れるものであれ、と祈るような。
そんなやさしさに溢れた町に、ひまりさんに、救われた春近くん。
彼が晴追町の中でどのように物語を紡いでいくのか、早く知りたくてたまらないです。
きっと、今回同様、やさしさで溢れた素敵なものになるはずだから。