ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『My Humanity』

『My Humanity』  長谷敏司

 

My Humanity (ハヤカワ文庫JA)

 

『SFが読みたい! 2015年版』が選ぶベストSF2014 国内篇 第4位 

ということで、今作がランキングの中で唯一文庫サイズだったので、書店で見かけた際に手に取りました。

 

 

 

「地には豊穣」「allo, toi, toi」「Hollow Vision」「父たちの時間」の4つの独立した短編から構成されています。

 

どれも現代よりも技術が発達した未来を描いているのですが、前半の2作はITPという他人の経験などを直接脳に書き込むことができる技術と人間の関わり合い方を描いた作品。

 

「地には豊穣」は、ITPの技術開発に携わる研究者の葛藤を描いた話で、脈々と受け継がれてきた文化の継承と生活の水準の向上を天秤にかけた際に、本当に技術の発展のために文化、伝統を捨てることができるのか、というのが本筋のお話です。

 

主人公の名前表記の仕方も工夫されていて、何よりも開発第一であった最初は「ケンゾー」と表記されているのですが、文化が掛け替えのないものだと気が付く時には「謙三」と表記が変えられていました。

 

さくさくと読み進めているうち、いつの間にか表記が変わっていて、主人公の心情変化と同じように、すっと漢字表記が馴染んでいて物語の内容とリンクするようで、少しどきっとしました。

 

 

 

 

そして、次の「allo, toi, toi」。

先ほどのITPの技術を小児性愛者の矯正に用いようとする話。

 

刑務所に入れられた主人公の心情の変化をITPが読み取り、生活を豊かなものにしていこうと働きかけていく話です。

 

「好き」の感情とは、一体何なのかということをすごく掘り下げた内容で、地獄のような刑務所生活の中でITPが魅せる幻覚の言葉に助けられ、なんとか身の回りのものを好いていこう、前向きに生きていこうとします。

 

とはいえ、ITPの矯正によって導かれるその結末は決して幸せとは言えないもので、読後感は何かがしこりのようなものが残る、私にとっていろいろと考えさせるものでした。

 

 

 

 

 

前半2作が技術と人の心の在り方を描いた思想的な話の内容だったのに対し(『ハーモニー』しか読んだこと無いけど、伊藤計画っぽい)、後半2作はわくわくする感じの内容でした。

 

 

 

まず「Hollow Vision」は、宇宙にも人が住み始めるようになり、あまりにもコンピュータが発達したため、個人で高性能なコンピュータを所持することが禁止された世界の話。

 

主人公は、宇宙でのそういったコンピュータの所持や犯罪を取り締まる機関に属する人間で、宇宙海賊による液体コンピュータの強奪の場面に出くわし、犯人と対峙します。

 

なんていうか、宇宙海賊とか液体コンピュータとか響きだけでわくわくしますよね。

 

主人公はタバコのような霧状コンピュータを用いて、手近なあらゆるものをハッキングし、犯人を追い詰めて行くのですが、霧状コンピュータって!  ハッキングって!

 

前半2作のような作品も好きなのですが、頭がはたらく時に向き合わないと本当に内容が入ってこないので、個人的には好奇心の赴くままに読み進めることのできる後半2作のような作風が好みです。

 

 

 

 

 

 

中でも1番面白いと感じたのは、最後の「父たちの時間」。

 エネルギー対策に原子力発電所が乱立する世界の話なんですが、放射能漏れに対しては特殊なウイルス程の大きさの30ナノメートルのナノロボットが使われていて、そのナノロボットが暴走し始めてしまう。

 

放射能を吸収しそのエネルギーによって自らを増殖させる事によって、人間が立ち入ることのできるようになるレベルまで放射性物質を減らす技術が用いられているのですが、当然のことながら原子炉からナノロボットが漏れ出し、当初の予定よりも早く世界中で増殖し始め、霧のように蔓延してしまう。

 

なんていうか、人間の手に負えなくなってしまったオーバーテクノロジーって王道って感じでわくわくしますよね。

現代から見る以上は、「絵空事」としてとらえることができるから、なのかもしれませんが。

 

そして最初は単一として存在していたナノロボットが、まるで生物の進化を追うように、集団化し始め、主人公含む研究者たちはその対応に追われるという。

 

中には他のナノロボットを捕食し始めるイレギュラーなものまで現れ始め、厳密にはナノロボットは生物ではないのですが、有川浩さんの『空の中』を読んでいる時のようなわくわく感でした。

 

逆に、この「父たちの時間」読んでわくわくした人は、『空の中』を読んでみて欲しい。

 

ナノロボット、本当に目覚ましい進化を遂げて、霧どころじゃなくなっちゃうんですが、主人公が研究を始めるようになったきっかけを家族に見出し、ナノロボットによるものと思われる原因不明の病に倒れる息子を助けたい一心で、ナノロボット殲滅にかける主人公、めちゃくちゃ熱いです。

 

 

 

 

 

……他のランキング上位作品も早く文庫化しないかなー。