ゆうべによんだ。

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『眼鏡屋は消えた』

『眼鏡屋は消えた』 山田彩人

眼鏡屋は消えた (創元推理文庫)

 

第21回鮎川哲也受賞作の今作。

 

 

書店で見かけたとき、主人公の女性が8年間の記憶がすっかり失われたまま母校で教師をすることになってしまう、つまりついこの間までは高校生だったのに気が付いたら自分は年を取って教師をしている、という設定から北村薫さんの<時と人>三部作の中の『スキップ』っぽい! と思い、手に取りました。

 

 

『スキップ』の主人公も女性で、彼女は理不尽にも思い出も何もかも跳ばされてしまったことに悩み抜きながら彼女なりに精一杯生きていく姿が描かれているのですが、今作の主人公である藤野千絵はどこかぶっとんでいる、と言ってもいいほど明るいともポジティブとも言い難い変わった性格をしている。

 

高校生のころから8年間の記憶がなくなってしまっていることに気が付いた当初は困惑するのだが、そのことでずっと頭を悩ますよりまったく経験のない中、次の日から高校の英語教師として生きていくことにちょっとしたわくわく感を抱くほどの。

変質者に出くわした時にさえ、その非日常性をラッキー、と思ってしまうほどの。

そして何より面食いであり、イケメンに目がない。

 

 

いきなり高校教師になった藤野千絵は、親友である竹下実綺の死を知り、その事実にひどく落ち込むかと思いきや、その死に違和感を感じた千絵はかつての同級生戸川涼介(イケメン)の手を借りて失われた8年間の記憶を探すかのように親友の死の真相を探っていく。

その中で、どうやら親友の実綺が遺した演劇の脚本、過去に学園に実在した男子生徒の死を題材にした『眼鏡屋は消えた』が鍵であるらしいことにたどり着き、身近な人から捜査を始めていく。

 

 

 

最初に言ったように、主人公の千絵が何事に対してもあっけらかんとしていて、人生に一抹の高揚感と隣にイケメンさえいればそれでいい! みたいな性格をしています、本当に。

青春時代の記憶がないことに不平を漏らすことはあっても絶望することはないのです。

推理小説でいうところの探偵役が真相を明かす場面までは、千絵と涼介が関係者に聞き込みをし矛盾点を洗い出していくという場面が続くのですが、物語全体としてはコミカルに進んでいきます。

というか千絵ちゃん、これから一人の女性として生きていくうえでそんな判断基準でいいの!? みたいな場面がいくつか出てくるので、いわゆる捜査パートは静かに進んでいくのですが、千絵ちゃんのどこか即物的なものの考え方には何度かくすりとしました。

 

 

大きな障害が起こることもなく過去の出来事について聞き込みをしていく、というのが物語の大半で登場人物の二人とともにわかることと分からないことをふむ、と整理していく形で話が進んでいきます。千絵ちゃんと皮肉屋の涼介含む数人以外は、一応常識人っぽい人たちばかりなので、キャラクターの立つ小説を好む人には聞き込み捜査のパートは少し物足りないと感じてしまうかもしれません。

 

以下、ちょっとネタバレあり。察しのいい人は分かってしまうかも。

未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

物語の結末としては、とても静かなものでした。

すべてを理解していたわけではないけれど、時間SFものの設定としての記憶消失ではなく推理小説の舞台装置の一つとしての記憶消失というところから、事件を解決する上ではさして重要ではないが物語の肝ではある部分についてところどころぼんやり気付いていたので、最後の探偵役が語る場面での誰がどのように行動したのかに関しては、なるほどね、という感じで、衝撃的というよりかはすとんと落ちるという感じでした。

 

そして最後の最後まで千絵ちゃんの対応がすごくざっくりで。

そんなんじゃイケメンどころの話じゃないよ、千絵ちゃん!

 

そして悦に入りながら推理を語る涼介、一読者として涼介の性格を知っているので荘厳さはひとかけらも感じないですが、それでも推理小説の最後に探偵役が関係者を集めて真実を語る場面ってすごくわくわくしますよね?