ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『舟を編む』

舟を編む』  三浦しをん

舟を編む (光文社文庫)

 
 
 
 
「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」
「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」
「海を渡るにふさわしい舟を編む
ーーp34,35 抜粋
 
 
そんな思いが込められた新しい辞書『大渡海(だいとかい)』。
 
馬締光也(まじめみつや)を中心として動く、辞書編集部の面々の辞書に対する思いとその完成までを描いたお話。
 
 
 
 
 
本屋大賞取ってたし、文庫化したみたいだから、とりあえず読んでみよー、なんて軽い気持ちで手に取ったらめちゃくちゃ面白くて一気読み。
 
 
 
 
まず、紙の辞書が作られるまでの過程というのがとても新鮮で。
 
 
高校の頃からはすっかり電子辞書頼りだったので、紙の辞書を使って調べ物をした記憶はだいぶ昔になります。
その頃は、本当にただ語句の意味を調べるためだけに使っていたのですが、この本を読んでからは、辞書って読みものとしてすごく面白いのでは?  と再認識。
 
 
左右など相対するものをどのように説明しているのか、恋愛など抽象的な感情を万人向けにどのように説明しているのか、どのような用例が書かれているのか、などなど、
それをふと気になった時に確認するだけでも、気の遠くなるほど楽しめなさそうなのに、辞書を編纂する編集部ごとに特色が出るとか、思わず手元に紙の辞書を置いておきたくなる。
 
 
 
 
 
 
 
それから何より、登場人物の辞書づくりというか仕事にかける思いがすごく熱い。
言葉は生き物であり、完全にとらえ切ることは難しい。また、予算等の都合から全ての言葉を載せるということはできない。
困難を自覚した上で常に『大渡海』に誇りを持って仕事をしている様が、よい。
もちろん、作中でも『大渡海』の完成は一筋縄では行かず、完成までに長い年月を要する。
それでも、いついかなる時も、自信を持って世の中に出せるような辞書を作り出す、という信念だけは決して揺るがないところにぞくっとくる。
 
編集部だけではなく他にも少々他の仕事をしている登場人物が出て来るのだけれど、その登場人物たちもみな、自分の仕事に“懸けている”。
もう、本当に、それが何よりも格好良くて。
 
 
 
 
それから馬締の独特の言い回しが個人的に小気味よい。
登場早々、趣味は駅でエスカレーターに捌かれる人の流れを眺めること、と言ってのける、どこかズレた本作の中心人物の馬締。
言葉の感覚を買われて辞書を編纂することになるのだけれど、他人との会話や自問の中での言葉づかいが本当によい。
 
中でも、つうと言えばかあの語源に思いを巡らせる場面で
つうと言えばかあ
おーいと言えばお茶
ねえと言えばムーミン
と続く言い回しがもうジャストミート。
しばらく“⚪︎⚪︎と言えば⚪︎⚪︎”と夢想するのが自分の中で流行りそう。
正解はと言えば越後製菓
 
 
 
 
 
そしてそして、本文、解説の後に馬締の恋文が収録されているのです。
作中でいろいろこじらせた馬締が意中の相手に恋文を渡す場面があるのですが。
 
そんな恋文が収録されているページの下部で、オーディオコメンタリーさながら登場人物2人が、馬締の恋文についてダメ出ししているのが、最後にちょっぴり可笑しくて。