ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 下』

 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 下』 暁佳奈

KAエスマ文庫 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 下巻

 

2018年1月現在放送中のアニメ、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の原作小説にあたるこの作品。

そして、主人公であるヴァイオレットが代筆屋として働き始めるまでの経緯と彼女を支える仲間たちとその後を中心に描かれた下巻。

 

 

以下、上巻の内容含め、物語の本筋に触れています。

未読の方、アニメ作品をネタバレなしで楽しみたい方はご注意ください。

上巻の感想はこちら。

shiyunn.hatenablog.com

 

 

 

 

上巻で最後に描かれた戦闘ののち、病室で目を覚ますヴァイオレット。

ギルベルト少佐の友人であり、同じく軍人であったホッジンズは、ギルベルトと交わした約束通り、彼が立ち上げた会社にてヴァイオレットの世話を引き受けることに。

 

 

 

まずですね、ホッジンズがヴァイオレットに「ギルベルトはもういない」と告げる場面。

紙面に綴られたその文字に、どれほどこの目を疑ったことか。

ヴァイオレットと同じく信じがたいと思いつつも、ホッジンズの言葉は頑なで。

希望に縋るというよりどちらかと言えば、「メタ」な読みから、「実は生きてるんだよね? そうだよね??」と疑わずにはいられませんでした。

――そうでなければあまりにも痛々しいヴァイオレットの姿を見ていられない。

「喜び」の感情をほとんど知らない彼女に、「絶望」や「悲しみ」だけが押し寄せるなんてあんまりだ、と思ってしまいました。

 

結論から告げてしまえば、ギルベルトは生きていて、ヴァイオレットにそのように告げさせたのも彼なりの理由があるのですが、この一連の顛末に関してはホッジンズの「大馬鹿野郎!」という彼の言葉と同じ気持ちでした。

ギルベルトの言いたいことも分からなくはないのですが、きっとヴァイオレットのためだと言いながら、それはなんら彼女の為ではなかったのだと気がついた時、ホッジンズの言葉通り後悔する日が来るだろうと思わずにはいられませんでした。

何もみずから罰せられるような修羅の道を選ばなくてもいいのに、と。

 

そして、そう告げられながらも、心の底からギルベルトの生存を信じているヴァイオレットが健気で。

なんていうか、ヴァイオレット自身、ホッジンズの言葉すべてを否定しているわけではなくて、「ギルベルトが死んでしまった」ということをどうやら事実らしいと受け止めながらも、それでもどうしようもない心の部分で彼の帰還を待ち続けているというのが本当にやるせなくて。

 

 

 

 

ギルベルトの死とこれからどのように生きればいいのだろうという迷いを抱えながら、ヴァイオレットは代筆屋として仕事をしていくことになるのですが、彼女の仕事仲間もまた本当にいいひとばかり。

きっと彼らからもヴァイオレットは色んな感情を学んだのだろうな、と思います。

私が敢えてひとり挙げるとすれば、カトレア。

ちょっとしたお祭りに2人で出かけた際のやり取りが本当によい。

「愛は、必要、ですか」

「必要だよ。何を頼りに生きるの。いままでの人生で優しくされたり、貰って嬉しかった物や言葉、あるでしょ。そういうの、あんたの中に溜まっていくから、あんた生きていけるんだよ」

p.213

愛は必要かと訊ねるヴァイオレットに対するカトレアのこの言葉が特にお気に入り。

 

カトレア含め、ラックスもベネディクトもヴァイオレットのことが本当に大事ですきなんだなと思えるような場面がたくさんあって、特に最後の彼女のピンチに対する同僚たちの行動は本当に胸がいっぱいになりました。

それに、ヴァイオレットの容姿や少し調子はずれな会話から、ヴァイオレットに対することに臆する人が少なくない中、カトレアたちは自身も特殊な出自ということもあってか、等身大の言葉をヴァイオレットに投げかけ、ヴァイオレットからの質問にも嘘偽ることなく言葉を紡いでいるのがなんだか微笑ましくて。ずっとこの関係が続いていくことを願わずにはいられませんでした。

 

 

 

 

そして迎えるクライマックス。

とにかく、ふたりがお互いに大事なものを失うことがなくて本当によかった。

ヴァイオレットを救うべく、ギルベルトはもちろんホッジンズやベネディクトたちの活躍もとても格好良かったのですが、ヴァイオレットがギルベルトと再会し、言葉を交わすにあたり、本当にいままでヴァイオレットは色んな人から思いを、愛を貰ってきたのだということがありありと伝わってきました。

ただ、ふたりが再開を果たしたということだけで嬉しいのに、上巻で描かれた旅先での面々や下巻で登場した同僚たちのことを思い返しては胸がいっぱいになってしまいました。

 

上巻でギルベルトに「愛」を告げられた時、その言葉の意味を知らなかった、理解できなかったヴァイオレット。

「その後、色んな人に出会ってヴァイオレットは愛を知ることができたのか」という答えが描かれている下巻の最後。

短いやり取りではあるものの、「わかるように、なりました」「......愛してるも、少し、わかるのです」というヴァイオレットの言葉に様々な人のまなざしを見出しては、ぐっときてしまう。

 

「愛」を知らなかった少女が、少しだけ「愛」知るための物語。

そこには絶望も悲しみもあって、だけどそれ以上にあたたかな誰かの思いがあって。

その思いに触れるたびに成長していく、学んでいく少女の姿に、手に抱えきれないほどの「愛」をもらった少女の行く末が、しあわせなものでありますように、と願わずにはいられない物語でした。

 

 

 

 

3月には外伝の刊行が予定されているようで、どのようなお話になるのか楽しみで仕方がない。

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ギルベルトとヴァイオレットのその後が描かれるのか、仕事仲間たちとのちょっとしたひと幕が描かれるのか、ヴァイオレットの仕事ぶりが描かれるのか。

はたまた、また不安をかき立てられるような展開になってしまうのか。

 

この素敵な物語にどんな思いが加わっていくのか、待ち遠しい限りです。

 

 

2018/5/1追記。外伝の感想はこちら。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝』 - ゆうべによんだ。