ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 上』

ヴァイオレット・エヴァーガーデン 上』  暁佳奈

KAエスマ文庫 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 上巻

 

 

 

2018年1月現在、アニメ放送中の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。

放送開始前からPVから気合の入れようがうかがい知ることができ、期待大だと一部で話題になっていたこの作品。

 

http://violet-evergarden.jp/

www.youtube.com

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』公式サイト

 

 

実は大分前に、それこそアニメ化が話題になる前に、この原作についてフォロワーさん同士がTwitter上でやり取りをしているのを見かけたことがあり、兼ねてから気になっていたのです。

しかし、こうして読み終えてからPVを見ると感慨深いものがありますね。

見る人にとって、誰かにとってきっと忘れられない、何物にも代えがたいアニメ作品になるのではないか、と、今から胸が熱くなってしまいます。

 

 

 

本作の主人公は、編み込みがされた金色の髪に碧い瞳の少女、ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン。

彼女は依頼人変わって代筆を行う自動手記人形――オート・メモリーズ・ドールとして世界をめぐっていた。

上巻では、彼女の代筆屋としての仕事ぶりが連作短編として綴られており、感情の乏しい彼女が代筆屋の仕事を通して人の思いに触れていく。

そして今巻の最後には、時間は少し巻き戻り、そんな感情を知らない彼女の生い立ちについて触れられることになる。

 

 

何といっても、まず「代筆」というモチーフがかなり私のツボを突いていて、手紙等々人の思いのこもった言葉を扱うとなれば、そこに描かれたものを大事に拾い上げようとつい、前のめりになってしまいます。

(同じような理由で小川糸さんの『ツバキ文具店』も気になっているのです。)

 

 

彼女の赴く先々での出来事は、ひとつの短編として読んでも本当に素敵なものばかりで、そこにある誰かの思いに触れるたびに心の中に綺麗な硝子玉が落とされていくようでした。

 

どれも素敵なのですが、まずひとつ。

『学者と自動手記人形』。

もちろん語り手である学者くんの心の動きもとても可愛らしく描かれているのですが、彗星観測をして、心から「綺麗」だとか「嬉しい」「楽しい」という言葉を口にするヴァイオレットがたまらなく愛おしい。

彼女が微笑んでいる様子の挿絵も相まって、本当に心がふんわりとしました。

この、彼女が仕事を行っていく物語を、彼女の成長譚としてみると本当にどれもせつなくていとしく、その全部をかき抱きたくなります。

 

 

そういう意味では、『青年と自動手記人形』にも色んな感情を見出していて。

最初読んだ時は「かなしい話だ」としか思わなかったのですが、一連の出来事をこうして彼女のための物語として見ると、きっとこの仕事は別のお話とは違った大きな意味があったのではないかと思います。

人を殺めるということ、その先にまた大事に思う人、思われる人がいるということをちゃんとその目で、肌で、感じることができたのではないかと。

 

 

そんな風に、上巻の前半は彼女の仕事ぶりに救われていく人々に心打たれたり、彼女が新しく感情を見つける度に胸がいっぱいになったりと、思いがいっぱいながらも穏やかさに満ちた物語でした。

 

 

......だからこそ。

終盤の雰囲気の変わりようには思わずどきりとしてしまいました。

『囚人と自動手記人形』のお話で既に不穏な空気はあったのですが、あたたかな思いのこもったお話から一転、最後は悲鳴と血に満ちた非情なまでの現実がそこにはありました。

前半で交わす言葉はどこかちぐはぐながらも完璧に仕事をこなしていたヴァイオレット・エヴァーガーデンが軍の「兵器」として戦場を駆け巡り敵国の兵士を蹂躙していた頃のお話。

 

 

彼女の世話役となったギルベルトの葛藤がそこには描かれているのですが、一度ボタンを掛け違えてしまったが故に、もう後戻りすることなんてできずに、ギルベルトは彼女を「兵器」として使おうと決める。そう、頭では思っていながらも、心は彼女に「道具」として使われる道しか選ばせることしかできなかったことを悔いていた。

 

 

多くの方が賛同してくださると思うのですが、ブローチを買う場面がたまらなくすきなのです。色んな感情がないまぜになって息が詰まりそうになってしまうくらい。

ギルベルトの瞳の色と同じだと言ってエメラルドに興味を示すのですが、その時に沸いて出た気持ちをなんていえばいいのかわからないとヴァイオレットは言う。

それを「美しい」というのだと店主に教えてもらうのですが、まず単純にとても「きれい」な場面だと思いました。

命令に従うまま、感情を持たず考えることもなく人を殺めてきた少女が、心の動きに興味を持ったことを祝福したい気持ちに。

 

そして。

それ以上にひと殺しの道具としての言葉を教えてきながらも「美しい」という単純な言葉を教えてこなかったことを後悔するギルベルトの気持ちを思うと、思わず涙を流してしまいそうになりました。

以前、彼女の保護者たるのは自分しかいないと自負していただけに、保護者失格の烙印を押されたような気持ちになった時の悔いる気持ちと絶望は計り知れないです。

では、自分は彼女に何をしていたのだろう? 守ってきたつもりになっていただけなのではないだろうか、と思ったらあまりにもかなしくなってしまいました。

 

 

そんな中迎える最後の壮絶な場面。

お互いにとっていちばん守りたいはずの相手が自分のせいで傷ついてゆく。

読みながら苦しくて、気がつけば縋るような気持ちで読んでいる私がいました。

ギルベルトとヴァイオレットのその後が気になるまま、上巻はひとまずおしまいに。

もう、生殺しみたいな、早く心安らかにひと呼吸つきたくて、はやる気持ちのまま下巻に手を伸ばしてしまいました。

ギルベルトがこの物語の最後にヴァイオレットに伝えた言葉の意味とその行く末を、心に深く留めて。

 

 

 

 

 

下巻の感想はこちら。

shiyunn.hatenablog.com