『魔法使いの願いごと』 友井羊
とりあえず。
綺麗なものしか見えないキミが好きだ。
たとえ、その瞳に映らなくても――。
という優しさと切なさ香る帯の惹句、好みすぎる......。
友井羊さんの作品、魔法使いが出てくるお話、そしてこの帯と「読みたい」センサーに引っかかる部分が多くて、読まずにはいられませんでした。
あらすじ
頭の怪我が原因で3歳のころに視力を失ってしまったヒカリ。
母と暮らす森のはずれでヒカリは魔法使い・ヒトと出会い、ふたりは次第に打ち解け親し気に言葉を交わすように。
それでもふたりの幸せな時間は長くは続かず、別れの時が訪れてしまう。
別れ際、魔法使いはヒカリに「綺麗なものだけが見える」ように魔法をかけてヒカリの前から姿を消してしまった。
そうして光と色を取り戻したヒカリの目だが、見慣れていくうちに景色に飽きていくうちに、次第に見えないものが増えていく。
生活は豊かなれど、不思議な目が原因で学校に生き辛くなってしまったヒカリは、母が今まで見た中でいちばん綺麗だという透き通る雪の花をその目で見るのが唯一の希望だった。
綺麗なものが次第に見えなくなってしまうことにおびえながらも、物語の最後でヒカリの目に映っているものは――。
魔法使いと透き通る雪の花
ヒカリがどうしてもその目で見たかったもの「透き通る雪の花」。
作中でその字面を観たときには「もしや、サンカヨウ*1???」と、ひとり色めき立ってしまいましたが、ここは魔法が存在する世界。
それこそ冬の魔法使いが魔法によって作り出す、というものでした。
この世界での魔法を習得する過程、というのがささやかながら本当に素敵でその本人の興味や好奇心が高じてその物事にまつわる魔法の力を得るのだという。
だからこそヒカリの目を見えるようにした魔法使いが魔法を使えるようになった経緯とか、「綺麗なものだけ」見えるように限定した理由が本当に人間臭くてとてもよい。
優しさとコンプレックスを兼ね備えていて、きっとこの魔法使い、ヒトはそういうコンプレックスを抱えているからこそヒカリに対して、あたたかい眼差しを向けることができたのではないのかな、と思う。
綺麗なものしか見えない瞳
次第に見えるものがなくなっていくヒカリの目はこの先どうなってしまうのだろう、と思いながら読み進めていたこの作品。
ヒカリが見慣れて新鮮味を失っていくたびに見えなくなっていくというのが、他人ごととは思えなくて少しだけ心がちくりとする。
歳を取ると時間の流れが早く感じるようになるというけれど、きっと私も小さい頃に見えていたあれやこれを知らずのうちに気にも留めないようになっていて。
そういう幼い頃のような世界の見方をできるだけしていきたいなとは思っているのだけれど、気が付けば当たり前のように日々を繰り返す私がいる。
それに関しては、大して価値のないものなのにヒカリの目に映る、という場面がすごく印象に残っていて、ヒカリはそれが取るに足らないものだと気がついたとき、落胆するのだけれど、それでも綺麗に見えたという気持ちを私は大切にしたい。
*1:雨に濡れると白い花びらがガラスのように透き通って見える花