随分前にネット上のやり取りで「戯言シリーズ読んだことないなんて羨ましい!」と言われたこともあって、ずっとずっと気になっていた西尾維新さんの戯言シリーズ。
こう、目の前にどん、とシリーズ作品の世界が広がっているとなんとなくしり込みしてしまう......。
刀語も、物語シリーズもアニメは観たことがあって間違いなく「すき」だとは思うのですが、未だ読めずじまい。よみたいよみたい。
今夏に東京と大阪で開催の「西尾維新大辞典」に意気揚々と乗り込みたくて、その前に読んでみた次第です。
私が西尾維新シリーズ作品を読むのは「美少年」シリーズに次いで、これでふたつ目。
あらすじ
財閥令嬢に招かれ絶海の孤島に集められた様々な専門分野に精通した天才たち。
機械の扱いは抜群の、青色の髪をした天才少女、玖渚友の世話役として連れられてきた「ぼく」は、文字通り完全無欠な天才たちを前に疎外感めいたものを抱いていた。
そんな中、館の中で殺人事件が起きてしまう。
犯人の正体が掴めない状況にもかかわらず、どこか緊張感のない館の主の態度に「ぼく」は操作に踏み出すことになる。
これは、コンプレックスに塗れた戯言遣いの物語。
天才×殺人
まずは様々な天才とやり取りを交わしながら語り部である「ぼく」の人となりが少しずつが明らかになっていくのだけれど、これまただいぶ天才たち――とりわけ玖渚友に対して並々ならぬ感情を抱いている。
僻みと諦めと尊敬と畏怖と......そんなものがひとことでは言い表しきれない程にごちゃまぜになった彼の胸の内にちょっと危うさすら感じてしまった。
天才が集まった閉鎖的な場所にて殺人が起こってしまうというシチュエーションに思わず「ダンガンロンパでみたやつだ!」と思ってしまったけれど、きっとそんなことを言ったら天才画家のかなみさんに「それって最高級の侮辱だからやめた方がいいよ」と諫められてしまう......。それにさらに、往年のファンたちにこの本の初出とゲームの発売日を考えろ! と言われてしまうかもしれない。
推理ものとして、論理の展開が本当に丁寧でミステリを読みなれた人なら割とすぐに気が付くようなことでも「ぼく」の口から説明される度に、私は「なるほど!」と感嘆してしまった。
また、一度解決したかに見えたこの事件も後々になって全然別の姿を見せて、別角度どころか別次元だったことを思い知らせる衝撃は尋常じゃなかった。
よくもまあ、そんなことを......というレベル。
それでも揺るがない確からしいもの
※以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意ください。
哀川潤の名前が出たとき、「あ、これ他の西尾作品の表紙かあらすじかなんかで見たことある!」と思ったのですが、ここまで完全無欠だったとは。
そうやって後から出てきた哀川さんが安楽椅子探偵よろしく「ぼく」が時間をかけた推理を伝聞だけであっさりと鮮やかに覆して見せた時には、「ぼく」の推理ではまだぼんやりとしていた部分にすべて説明がなされて、思わず舌を巻いた。
首無し死体が再利用された、ということで、クビキリサイクルというのは首切りとリサイクルなのでは!? とひとりまるで世界の心理に気付いてしまってような気持ちになった。
まさに「ぼく」推理は哀川さんから言わせれば穴だらけで(それでもいち読者の私から見たらその推理も犯行可能なものではあったけれど)、真実からは程遠いものではあったけれど、あの島で起こったことの中で哀川さんが言及しなかったことはどうやらゆるぎない確からしいものだと私は勝手に解釈していて。
友が「ぼく」こといーちゃんのために、葛藤なんて言葉じゃ生易しいくらいの苦しみを乗り越えて、階段をひとりで移動していーちゃんの身を案じたというのがただただ私にとってはまぶしくてたまらない。
あの、「ぼく」が犯人を追い詰めながらも一歩及ばず投げやりな気持ちになっていたところに、ある種「ぼく」をそうさせたとも言える友が動いた時の私が感じたカタルシスと言ったら。
友の感情はひどく幼いものだと分かりながらも、彼女のその行動を嬉しいと思ってしまう「ぼく」の心よ。
私はそういうどれだけ割り切ろうと思っても、抗いきれないバグみたいなその感情がたまらなくすきだ。
これからのふたりの関係性がどのように変化するのか、あるいはしないのか、本当に気になる。