『双子喫茶と悪魔の料理書』 望月唯一
「悪魔の料理書」という響きに「アピキウスだ!!」と思って、つい。
そもそもアピキウスの名を知ったのは「新世界樹の迷宮2 ファフニールの騎士」というゲーム。
私にとって、ダンジョンに現れるモンスターの素材を料理にするという、いわゆるダンジョンとの初めての出会いで、ゲームをプレイした当時のわくわくを胸にこの本を手に取った次第です。
そのせいもあってか、すっかりファンタジーのつもりでいたら現代日本が舞台の小説でひとり勝手に面食らったのは別の話......。
あらすじ
とある喫茶店でアルバイトをしていた不破篝と双子の水希と葉月。
篝は双子の姉の葉月に好意を抱きながらもその思いを打ち明けられずにいた。
そんなある日、水希が持ち出した古本から飛び出したのは願いを叶えるという幼い少女の姿をした妖精キキ。
篝の葉月に対する好意を知っている水希はなんとか2人の仲を取り持とうとするが、古本とキキの力により何故だか篝は水希と縁が結ばれてしまう。
それ以来、すっかり篝と水希はクラスメイト、葉月含め公認の仲になってしまっていて、それがおかしいということに気が付いているのは篝と水希の2人のみ。
キキの言葉を信じて、2人はなんとか篝と葉月との縁を結ぼうとするが――。
それぞれの思いと切なさが交錯する恋愛小説。
控えめに言ってサイコー、私の好みすぎる恋模様
※ネタバレ含みます。未読の方はご注意ください。
篝の恋を応援していながらも、水希自身が篝のことを憎からず思っていることは、早々に察することができたのですが、もう、終盤に向けての流れから結末までサイコーすぎた。
私の好みから言わせると、なんだかんだあってこのままドタバタしながらなんやかんやで篝が葉月と結ばれるのも、篝が改めて水希の存在の大きさに気付いたりなんだりしてするりと水希と結ばれてしまうのも、あんまり「美味しく」ないな、と思って読んでいたのですが、これまた。
それが「恋」という理由だけで大団円を迎える小説よりも、こういう物語の方がすき。
篝、水希、葉月で言うと、もう、水希がたまらなく愛おしい。
散々悩んで篝の幸せを優先し、そのためにと「悪魔の料理書」の力でひとり世界から姿を消してしまう程の身勝手さが。
「私の知らないところで勝手に幸せになっていてくれ」と切に願うのがある種、私が考え得る、誰かを思う気持ちの究極系のひとつなので、それを体現したような水希の言動についつい引き込まれてしまう。
それでもちゃんと篝は水希のことを思い出して、叱って、強引にでも連れ戻そうとするあたり、えらい。
悪く言えば人たらし、でもあるけれど。
水希が本当に私の中でキャラとして好みすぎて、つい、肩を持ちたくなってしまう。
なんでも彼女の思う通りになれ、とまでは言わないけれど、後悔なく生きて欲しいと思う。
最後の場面の「ちゃんと葉月よりもあたしを選ばせてみせる」という台詞がもう、あんなひとりで消えようとしていた女の子の台詞だとは思えなくて、目の前にボタンがあったなら多分思わず「いいね」ってしちゃうくらい。
今までの一歩引いていた水希はいなくて、ここから新たな彼女の恋が始まるのだと思うと、まぶしい。
あとがきによれば「また次巻でお会いしましょう」とのことなので、続きが楽しみすぎる。
これでもし、次巻で今回は描写が少なめだった葉月の胸の内がより詳細に語られたら、次は葉月もすきだー! ってなるかもしれないけれど、きっとそれは小説を読むうえでとても幸せなことだと思うのです。