『君と四度目の学園祭』 天音マサキ
時間もの×青春というだけで手に取っちゃうやつ。ジャンル買い。
こればっかりは本当にどうしようもなくて、せつなさ至上主義者の私にとって、時間ものと青春ものあるいは恋愛ものという組み合わせはこの上なく好物なのです。
それでも、これだ!!これこそ私の性癖ど真ん中!100点満点!!という作品に出合う事なんてそうそうなくて、「せつなさで私を満たしてくれる作品はどこに......」とあくがれいづるがごとく虚ろな眼で読み漁ってしまう。
特にここ最近は時間ものを扱った作品が本当に多くて、財布と時間が悲鳴を上げています。実際に手に取るかどうかの確固とした判断基準なんてなくて、本当にその場の気分と運、です。それと財布事情。
私の性癖ど真ん中でないからと言ってつまらない、ということはなくて、もうなんていうか、誰かの感情がなんらかの普通でない時間によって隔てられているだけでせつなさを見出して、おいしいおいしいと言って食べるので、基本的にはちょろいのです。
(それが恋という理由だけでハッピーエンドを迎えて欲しくない、とかいう市場には受け入れられ難い嗜好なので、100点満点のお話が読みたければ自分で作った方が早そう、まである)
話は逸れましたが、では、今回読んだ作品について。
本題。
あらすじ
主人公の結羽太は幼馴染の久遠が誰かに告白するらしいという噂を耳にする。
普段、両親の仕事の都合もあり、ふたりで夕飯を食べることも多いが、結羽太見てどうやら最近久遠の様子がぎこちない。
学園祭でふたり、恋仲となる役柄で演劇を行うことになるも、その学園祭の準備期間中、結羽太の身には不可思議な出来事が襲い掛かる。そしてそんな時、決まって結羽太の傍には久遠がいた。
久遠本人の「明日また告白する」という言葉に、幼馴染の彼女が好意を寄せる相手は誰なのかという焦りを抱えつつも、そのことに一歩踏み込んで触れられずにいた。
そして近づく学園祭当日。今までのような関係はいつまでも続かなくて――。
※以下、ネタバレ込みです。未読の方はご注意ください。
”明日ね。また告白するよ。”
裏表紙のあらすじにもある久遠の台詞ですが、この意味が分かるのは本当に物語の後半でしたね。
特に、「今日は決意が鈍っちゃったから」というところ。
正直、結羽太の頭を悩ませていた久遠の告白の相手は、素直に考えたら結羽太しかあり合えないだろうと思っていたのですが、久遠自身がどのような時間を過ごしてきたのかがずっと気がかりでした。
結羽太の身に迫る死の危険と何故かそれを危機一髪のところで救い出す久遠。
今回読んでいて思ったのは、時間を巻き戻すってどちらかというとあこがれの対象ではあるんですけど、そのことをひとりで抱え込まなくてはならいとなると、過酷以外の何物でもないな、ということ。
おまけに、久遠が結羽太への思いを伝えようとすると決まって近しい人が死んでゆく。
......私だったら、思いを伝えることを諦めるだろうし、それでよかったのだとひとりで無理やり納得しそう。
だからこそ、結羽太からの告白も止む無く断る場面、たまらなく胸が詰まる。
もう、本当に少しでも早く結羽太に真実を伝えられてたら、2人とも傷つかずに済んだのに......と境遇を恨めしく思ったり。
冬夏の正体って
紆余曲折経て再開することができた結羽太が将来の子供の名前は冬夏がいい、と思う場面。十中八九、彼らのクラスメイトとして存在していた未来からきたという冬夏は、結羽太と久遠の娘だと思うのですが、その前の「毎年、間の日である十二月一日に一緒に誕生日をしていた。」という一節で「もしや??」と思わずページを捲って思い当たった部分を探してしまいました。
母が料理を作るのは、私と弟の誕生日と十二月一日の計三回。
p.107
最初にこの台詞を読んだ時には、どうして12月のそんななんでもなさそうな日に? と思ったのですが、結羽太と久遠の誕生日、ということだったんですね。
そして、何よりも普段料理しているのは父親(=結羽太)というところが、あのふたりそのまんま。
そうなると、冬夏が未来人だと明かした時の「弟かわいい」発言は、姉としての言葉ということに。そうやって後から冬夏のひととなりが少し分かる感じ、たのしい。
そして、何より冬夏がこうやって父と母を救うために未来からやってくるところまで織り込み済みの時間の流れ、ということになるんですね。
冬夏から薬を貰えなければ、命を落としていたことになるのだし。
こうして色々書きだしていてふと思ったのですが......もしかして、冬夏は自分の身を犠牲に両親を救った、なんてことは、ない、ですよね? ね?
いやでも、だったら、結羽太と久遠がやり直した世界の流れだけが正史だということにすれば......。
......。
パラドックスがどうとか正しい時間の流れがどうとか考えだすとドツボにはまるので、都合よく解釈してしまおうと思います。読者の特権!
もう本当にありとあらゆる時間ものを読みたいのに、有名な海外の古典SFすら読めてないの、つらい。
ハインラインの『夏への扉』とかフィニイの『ゲイルズバーグの春を愛す』とかとか。
- 作者: ロバート・A.ハインライン,Robert A. Heinlein,福島正実
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