ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『緋紗子さんには、9つの秘密がある』

『緋紗子さんには、9つの秘密がある』 清水春木

緋紗子さんには、9つの秘密がある (講談社タイガ)

 

 

 

講談社タイガより、ミステリアスな雰囲気漂う青春小説。

私が小説を通して最近覚えたイラストレーターさんのひとりがとろっちさんなのですが、この表紙イラストもとろっちさんが手がけているとは本を開いてその名を見つけるまで分からなくて、いい意味でまたひと味違ったイラストも描けるのかと驚き。

 

清水春木さんの名前はTwitterを通して何度か見かけたことがあるのですが、こうして作品を読むのは初めてなので、どんな物語を書くのだろうとわくわくした気持ちでページを開きました。

 

 

 

※ネタバレ含みます。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

あらすじ

「私と誰も仲良くしないでください」

転校早々、クラスメイトにそう告げたのは、端正な顔立ちながらも冷めた目つきをしている緋紗子。 

学級委員でお人好しで頼まれたことは断り切れない性格の主人公の由宇は、緋紗子のことを気に掛けるもなかなか声をかけるきっかけをつかめずにいた。

そんなある日、由宇は彼女の秘密を知ることになる。

以降、由宇は緋紗子との会話の中で少しずつ隠れた彼女の一面を知ってゆく。

なかなか真意を掴むことのできない突発的な言動に振り回されながらも、最後の9つめの秘密が明かされるとき、由宇と緋紗子の関係は。

 

 

緋紗子さんの秘密

順を追って緋紗子さんの秘密が明かされていくのですが、等身大の可愛らしい秘密から、彼女の過去のまつわるもの、謎めいた超常的なものまで、色んな秘密が用意されていました。

それこそ、その秘密こそが彼女を構成していると言っても過言ではないほど。

 

普段は頑なに他人との距離を置き、孤高を貫き通そうとするのですが、そんな硬い表情の彼女がふいに見せるちょっと抜けた行動に思わず笑ってしまいました。

彼女は去る事情から幸せな感情を抱くことを避けているのですが、私の好きな場面にまつわる彼女の秘密をここでひとつ。

緋紗子さんの秘密その5 「実は、猫と海が好き」

由宇と猫カフェへ行くことになるのですが、事情により幸せだなーと思ってはまずい、ということで、緋紗子は目隠しをすることに。

それでもなお、猫に囲まれた空間である、と想像するだけで幸福を感じるのか、鳴き声や手に触れた毛の感触は決して猫ではないと必死に言い聞かせる姿がこれまでクールなイメージとはかけ離れていて、思わず笑ってしまいました。それこそ、この部分読んでいる時だけは、知らぬ間にギャグテイストな小説に?? と思ってしまう程。

 

とは言え、どちらかというと身につまされるような場面が多いこの作品。

クラスの中心的な存在である薫と緋紗子の間で板挟みになったり、両親が離婚間近で重苦しい食卓での会話だったり。

先の緋紗子のちょっと可笑しい場面や気の抜けるような由宇と幼馴染の修一の会話が私にとってちょっとした心の安息所でした。

 

 

そうして、由宇と一緒に時にはどん底の不幸を味わいながらも、9つめの、最後の秘密が明かされるのはいつなのだろう、と気になっていました。

紆余曲折経てようやく明かされる最後の秘密。

最後の秘密は由宇が見つけるのではなく、由宇に教えてあげよう、と緋紗子が前向きな気持ちで抱いているのがほんとうによい。

そして読みながらすっかりプロローグの内容や緋紗子と由宇の出会いの場面のことをすっかり忘れてしまっていたので、「そういえばそうだった!」と、多分その時の私、目を見開いていたと思います。

 

 

 

自分本位と相手本位

作中、由宇が緋紗子に「誰かが、誰かが、ばっかりで自分がない」というようなことを言われる場面があります。

一方、クラスの中心的存在の薫は「自分ばかりで相手を思いやらない」というようなことを後に由宇に指摘されます。

由宇が言いたいことを言えるようになったと成長を感じた場面でもあるのですが、他人本位で生きるべきか自分本位で生きるべきか、きっとどちらも間違いではないのだろうな、と思いました。さじ加減が必要なのだと。

私はどちらかというと、自分の幸も不幸も、他人を主語にして語りがちなので由宇に似ているのだと思います。おためごかしがとくい、ともいう。

 

誰かの幸せが自分にとっての幸せだという考え方を優しく肯定するような結末に、「誰かが幸せでいてほしい」というのは紛れもなく”私の”願いなのだ、と心に留めておきたいと思いました。

だって、なんだか他人を主語にして話をするのって、自分がどういう気持ちで発しているかは置いておいて、傍から見るとなんだか不幸みたいだ。今回、由宇を見ていてなんとなくそう思う。

終盤、由宇が飛び出す場面では希望感じるけれど、その行動だって自分のためであり、何より緋紗子のためだ。

気の持ちよう、なんて言ってしまってはあまりにも味気ないけれど、「私が」愛すべき世界や人なのだと思うと、なんだか色々なものの彩度が上がって見えそうな、気がしている。