ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『読者と主人公と二人のこれから』

読者ぼく主人公かのじょ と二人のこれから』 岬鷺宮

読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

 

 

以前に表紙の雰囲気に惹かれて読んだ『失恋探偵の調査ノート』以来の岬鷺宮さんの作品。

 

今回は、どうやら「本」や「物語」が深く関わる恋愛小説らしい、ということで手に取って読んでみました。

 

過去に友人を傷つけてしまったことから極力人との関りを断っていた主人公。

しかしそんな灰色の学生生活も、高校入学と同時に転機を迎える。

何もかも新しいクラスでのホームルームにて、黒板の前で自己紹介をした女の子は、主人公が愛して止まない小説に登場する「トキコ」と見た目から趣味、考え方、何から何までそっくりだった。

 

そんな「柊時子」と物語の中にしか存在しない「トキコ」を重ねながら、彼女と同じ時を過ごしていく中で、主人公の細野晃は自身に芽生えた感情とどのように向き合っていくのか。

 

 

これ、想像以上にひやひやとする恋愛小説でした......すきだ......。

あらすじを読んだ時から、「これ絶対に現実と物語のギャップに悩まされるやつだ! 恋と憧れをはき違えそうになる危うい感じのやつだ!」と思っていたのですが、これでもかという程にその部分について描写されていたので、もう大満足です。

 

 

 

 

 

※以下、内容に触れています。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

まずは、先程も挙げた現実と物語の境があやふやになってしまう危うさについて。

作中、細野くんの友人からも「危うい」と指摘される場面があるのですが、トキコのモデルが時子であるとは言え、柊時子の「トキコらしくない」一面を見たとき、細野くんはどうするのだろうと、読み始めてからずっとそればかりが気がかりでした。

私の懸念が悪い形となって現れたのが時子が細野くんに告白をする場面。

もう、告白の文言を口にする直前の地の分でもはや既に「やめてくれーー」という感じでした。

そして、柊は。

目の前の柊時子は、致命的な一言を俺に告げた。

 「致命的」という言葉を何気なく選んでしまう程に時子とトキコに対する思いを扱いあぐねているかと思うと、もう、当事者でない私が「どうしましょ、どうしましょ」となってしまう。

告白の言葉を致命的だと思ってしまうその感性が致命的すぎるよ、細野くん。

恋とはなんぞや、彼女に触れたいと思うのは汚れた感情なのではないかとエロと切り離して考えようとする細野くんの姿に『夜は短し歩けよ乙女』の先輩を思い出すなど。

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

 

 

 

 

 

でもここまで極端ではないにしろ、現実でも相手に抱いていた物語やイメージと食い違ってしまう、ということは多々ありそう。

きっと喜んでくれるだろうなと思ってやったことが、蓋を開けてみたらそうでもなかったり。

きっちりしていると思ったら、案外ずぼらだったり。

 

 

 

 

今回、時子も時子で、細野くんが想像する「トキコ」に寄せようとしていたところも一時関係がこじれてしまった原因のひとつだと思う。もちろん、結果的にこじれてしまっただけで、時子も細野くんも決して悪くはないのだけれど。

物語ありきでなく、俗にいう「もっと普通に出会えていたら」と読みながら何度か思ったけれど、物語があったからこそ壁を作りがちだった2人が距離を詰めることができたと思うと、紆余曲折あれどとりあえず2人が幸せな結末を迎えて良かったと思わずにはいられない。

入り口はトキコだったかもしれないけど、確かに細野くんが好きになったのは時子なのだと。

 

 

著者あとがき曰く、時子と別シリーズ『失恋探偵ももせ』の登場人物に近いものがあるらしい。

ちょうどスピンオフ的な?『失恋探偵の調査ノート』も読んでいたことだし、これは私に向けて『失恋探偵ももせ』も読んでみるしかないよって言外に言っているに違いない......よまなきゃ。