『ハイドラの告白』 柴村仁
『プシュケの涙』に続く、シリーズ2作品目。
シリーズと言っても完全な続き物というわけではなく、いわゆる後日談のような形で前作の登場人物のその後をうかがい知ることができるというものでした。
前回の感想はこちら。
今作は主にふたつの物語から構成されていました。
ひとつ目は美大生の青年春川がとある芸術家を追って訪れた田舎町で由良に出会うというもの。
ふたつ目は絶望的な恋をしている少女の話。
どちらも「由良」を巡る物語。
※以下、前作『プシュケの涙』も踏まえ、内容に触れている部分があるので未読の方はご注意ください。
まずは、ひとつ目のお話から。
前作を読んでいるとハッとする場面がいくつかあって主人公と同じ美大に通う由良が青い絵ばかり描いていることだったり、モルフォ蝶という単語が出てくることだったり。
それでも、主人公とそんな会話を交わした由良が前作の由良とは別で、双子の兄弟だったとは思いもよりませんでした。
すっかり由良彼方だと思っていて、ネタばらしの段階で思わぬふいうちにびっくりしました......。
しかしあの兄弟、どちらものらりくらりとして掴みどころのない性格しているんですね、顔だけでなくそんなところまでそっくりとは。
また、今回渦中の掛け軸が由良の手に渡った経緯など、前作登場した吉野彼方という少女の存在がここまで色濃く仄めかされているとは思ってもいませんでした。
そしてふたつ目。
由良彼方の双子の兄弟、由良宛(あたか)に恋する少女の物語。
彼方のことばかり心配してその他のことにはまったく目もくれない宛に執心し、目を引きたくてグラビアアイドルを始めてしまうような、歪んだ熱っぽさに少しくらくらしてしまう。
いちばんすきな部分があって、客寄せとして友人に誘われて参加した合コンの帰りに、雨の中、傘をさした宛が駅まで迎えに来る場面。
「もしかして、駅前でずっと待っててくれたの?」
一瞬、期待に胸が騒ぐが、
返答なし。
……なんだよ、もう。
たった一言でいいのに。
「そうだよ」とでも「うん」とでも。
そのたった一言でカタルシスだったのに。
残酷なアーちゃん。
「そのたった一言でカタルシスだったのに。」という1節が特に。
それほどまでに宛しか見えてなくて、宛の言葉が何よりも欲しくて、その一言だけで生きていけるような、少しだけ不健康な香りがする恋心。
こういう依存の混ざったようなどうしようもない感情、たまらなくすきかもしれない。
彼方のことばかりの宛のことを残酷だというけれど、そういう主人公だって宛だけをひたすらに思い続けるあたり、とても似ている。
よっぽどのことがない限り恋という形でふたりの関係が落ち着くことはなさそうだと感じている。
きっと小さな幸福と不満の波を繰り返していきながら、それでもずっと一緒に生きていくのだろうなと思う。
それからあとがきにあった『青の美術史』という本、色々と青色について書かれているようで、ちょっと気になっている。
これ、紹介されているものとは刊行年数、出版元が違うようだけど、こちらの発刊の方が新しいので、また大きな書店に足を運んだ折に探してみたい。