『ifの悲劇』 浦賀和弘
浦賀和弘さんの作品にしてはページ数が少なくさくっと読めそうだったので、気軽にページを捲り始めてみた次第です。
とは言え、作品の構成だったりアクが強かったりするのは、流石浦賀和弘作品と言ったところ......。
私の中で、すっかり浦賀作品はぶっ飛んだものが多い印象。
書店で浦賀和弘さんの名前を見かけると、ついついシニカルな笑みを浮かべてしまう。
今回は浦賀和弘さんがパラレルワールドを題材にした物語ということで少し前から気になっていました。
妹を自殺に追い込んだ男を殺めた際、その目撃者を車で轢き殺した場合とそうでない場合の「もしも」の世界が交互に描かれていく。
どちらの世界の主人公も轢き殺さなければよかった、轢き殺しておけばよかったと後悔するというメタっぽい場面に思わずにやり。
物語が進むにつれだんだんきな臭さは感じるものの決定的な鍵を掴むことはできず、疑念が膨らみながら物語は佳境を迎え、そうして得られるカタルシス。
最後に物語の顛末や真相が語られるのですが、真相を知っているかどうかで意味合いががらりと変わる台詞がいくつか仕込まれているのに、素直に驚嘆。
読後感という意味では割と大人しめだったので、単純に物語の構成にびっくりしたい人には、気軽におすすめできます。そうしてゆくゆくは『彼女は存在しない』とか読んで「なんだこれは」と打ちひしがれるといい。
※以下、ネタバレ含みます。未読の方はご注意ください。
別シリーズの主人公である桑原銀次郎が出てきて、昔の映画俳優みたいな名前だというお決まりの流れもあって、ちょっと嬉しい。
プロローグ早々、主人公が妹と体を重ねていて思わずにやりと口の端が上がる私。
ある程度そういうことも織り込み済みで読んでいるのですが、初めて浦賀作品を読む人の反応が見たい。
そのプロローグでの小説家と編集さんとの話し合いにて、パラレルものとして違う世界の出来事を口語に書くにあたり、各世界に共通した出来事はできる限り省略してしまえばいい、というのは完全にミスリードだったんですね。
その描写がないことで世界を分ける決定的なものごとに言及するのを避けることができるし、読む側としてはそれは手抜きではなくてその間共通のできごとがあったのだと補完される。
またエピローグでもあったように「彩がまだこの家にいたら――」みたいな、ネタバレ後に認識がすっかり変わってしまう台詞があるのが本当によくできてる......。
この変化の楽しみは本当に初読ならではのものですよね。
最近の、こういうパラレルワールドのような時空の隔たりを扱う作品は感動的な結末を迎えるものが多いのですが、そんなことにはまったくならない相変わらずの浦賀和弘作品っぷりに、逆になんだか安心感を覚えてしまう。