ゆうべによんだ。

だれかに読んだ本のことをきいてもらいたくて。

『さよならのための七日間』

『夜桜荘交幽帳 さよならのための七日間』 井上悠宇

夜桜荘交幽帳 さよならのための七日間 (富士見L文庫)

 

五感すべて及び第六感で「多分これ、好きなやつかもしれない」と感じ取って手に取る枠。

書店とかネットとかでぼんやり眺めてると、時々もとい稀によくあるやつ。

こういう時、その衝動に実際に従うかどうかは本当に時の運というかちょっと匙加減なのです。私でもどこに境界線を置いているのかよくわからない。でも、手に取らなかった場合、「気になっていた」という記憶だけが残って何の本だったかすっかり忘れて、そのことを後悔してしまいがちなので、できるだけ素直に衝動に従っていきたいとは思っているのです。

 

今回、多分私が手に取る決め手となったのはあらすじにあった、主人公の姉が吐いたという嘘。どんな嘘なのだろう、きっと、とびきり優しいものなのだろうな、と想像したら気になってしまって。

ある日、主人公の男子高校生、春馬の元に亡くなったはずの姉の葉子からの手紙が届く。手紙にあった古いアパートに足を運ぶと、そこには幽霊となった姉の姿があった。

そこに住まう管理人のような役割を務める鬼、薄録の言葉によれば、49日までの地獄送りを一旦保留されたものが集うアパートだという。地獄送りを取りやめにしたくば、潔癖を証明しその旨を閻魔帳に記すよう告げられる。

嘘を吐いた罪によって地獄行きを命じられたという葉子の調査を早速始める春馬だが、葉子は肝心の嘘についてまったく話そうとはしなかった。

 

 

巡り巡って姉の閻魔帳作りの役に立つ、という薄録の言葉に唆されるように春馬は色んな人の閻魔帳作り――あらゆる罪状の無罪の証明を行うことになる。

まず薄録のキャラがのらりくらりしていてゆるいのなんのって。

角が着脱式なのとか金棒の代わりに煙管を口にするとか、それでも料理好きで下の感覚が鈍るから決して煙管に火をつけることはないとか、十全の愛をもってして「テキトー過ぎるでしょ」と言いたくなる。

 

この閻魔帳作りというのですが、案外鮮やかに様々な罪がクリアになっていくのがとても面白かったです。

いい意味で、離れ業、力業。ちょっとした問答みたいで、確かにそう考えれば罪でもなんでもなくなってしまうな、という結末が待ち受けている。

すごくいいな、って思ったのが、確かに死んだ時点では罪に問われるべき行為だが、その人の死後にどのように周りの人や環境が変化したかによって地獄行きを覆すことは大いに可能だということ。

誰かが生きた意味を、死んでしまった意味を、残された人たちが色付けていく感じに、そうして巡り巡って死んでしまった本人も救われていくところが。

 

 

そして、葉子が春馬に吐いた嘘の内容ですが、まずはお話の構造として、薄録の言葉通り春馬のおこなってきたいくつかの閻魔帳作りが、ちゃんと布石として葉子の閻魔帳を作ることに繋がっているところに、感嘆。

そして、あらすじを読んでいた想像していたものよりも葉子の吐いた嘘は、私にとって人間臭いものでした。だからこそ、嘘を吐いてしまったことに「どうしようもなさ」が滲み出て、それによって地獄行きになってしまうことに一抹の切なさを見出す。

きっと姉、弟の関係でなくとも誰でも抱き得る感情なのだけれど、姉と弟として長く時間をともに過ごしてきたからこそ、葉子は嘘の内容を春馬にひた隠しにしたのだし、春馬は葉子の言葉から最後にはその嘘に気が付くことができたのだと思う。

 

 

 

 

それから最後に。

 

「きたいはあらゆる苦悩のもとだな、春馬。それでもわたしは鬼きたいしているぞ」

もう1人(?)、蒼命という名の舌足らずでおさな可愛いポジションの薄録の目上の存在となる鬼がいるのですが彼女のこの何気ないひとことが好き。

特に、それでも、ってところ。

......よくない?????? 

鬼よくない??????

 

 

 

 

友麻碧さんのあやかし夫婦のシリーズ含め、私の中ですっかり富士見L文庫は、幽霊あやかしものに厚い、という印象になってます。(レーベルに限った話ではなくて、キャラ文芸全般的に幽霊あやかしものがトレンドになっている、というのもあるのかもしれませんが)

浅草鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。 (富士見L文庫)

浅草鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。 (富士見L文庫)

 

 

 

 

あとから気が付いたのですが、『きみの分解パラドックス』と同じ作者さんだったんですね。

きみの分解パラドックス (富士見L文庫)きみの分解パラドックス (富士見L文庫)
 

 

 こちらも書店で平積みになっていたのを新刊として刊行された当時何度か目にして印象に残っていたのです。

これも、依然として気になってはいるのです。ちゃんと、いつか読みたいな、とは思っているのです。

ちゃんと。