『リリエールと祈りの国』 白石定規
どんなものでも大聖堂に捧げられた祈りは成就してしまうという不思議な都市を舞台にした物語。
主人公のマクミリアは、何故だか仕事が長続きせず解雇されてしまい、空腹に行き倒れていたところを「戒祈屋」を営むというリリエールの世話になることに。
マクミリアの仕事が長続きしないのは誰かの祈りのせいで、リリエールはそんな祈りを解除することのできる稀有な存在だという。
コミカルな要素を含みつつ、飾らずざっくりとした物言いのキャラクターが多くテンポよく会話が進んでいくのですが、時折見せるシニカルな部分がたまらなく好き。
像に下着を穿かせる怪盗だったり、邪な理由で祈りを捧げて恋愛観がぐちゃぐちゃになったりするシーン(簡素に言えば百合至上主義世界)は、それこそ(いい意味で)「阿保らしい」と思いながら読み進めていたのですが、捧げられた祈りがなんでも叶うからこそ、祈りを廃止しようとしない国政を批判するものたちが現れ始めて。
なんていうか、こう、物語の構図上、レジスタンスとして祈り廃止を支持する人たちが据えられた以上、普通だったら主人公サイドは、なにかと良かれと思う理由を持ち出して祈りが存在する世界を肯定するというのが私の認識なんですが。
祈りにすっかり浸っているこの世界はもう既に終わってると言い放つ主人公に思わず痺れる......。マクミリア、作中は本を読み聞かせしたり、図書館で出会った少女を救ったりと、面倒見がいい一面を何度も垣間見ることができるのですが、その一方で冷めたものの見方をしていて、思わずそのギャップにどきりとする。
この国を変えたければ、ただ大聖堂が朽ちるのを待つしかないとい言うマクミリア。
そしていつか、本当に終わりが訪れたとき――そのとき後悔すればいい。好き放題やってきた過去を。下らない祈りに費やしていた時間を。
この突き放すような一節が、いちばんすき。
それから、作中、イレイナという名の魔女が登場します。
まあ、私がいちいちここで言及するまでもないと思いますが、彼女が主人公の『魔女の旅々』という別作品があるのです。
もともと、その作品を読んでいたのがきっかけで今回の作品も手に取ってみたのですが、作中『魔女の旅々』と思しき作品に触れられている部分があって、ふいうちだったということもあり、その内容に思わずげらげら笑ってしまいました。......口惜しい。
マクミリアが好きな魔女が登場する物語の未だ見ぬ4巻を探す場面にて、港の露店のおっちゃん(モブ)の「それ三巻打ち切りって噂だぜ?」のひとことの破壊力たるや。
というのも。
この『リリエールと祈りの国』が”刊行された当時”は『魔女の旅々』は(大人の事情で)三巻でシリーズが終了という話だったのです。
そう、刊行された当時は。
それがこの度4巻も刊行される運びとなったようで。めでたい。
『魔女の旅々』全巻重版&4巻の発売が決定しましたーっ!!
— あずーる@COMIC1 と41a (@azure_0608) 2017年4月8日
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今回の祈りが存在する世界設定だったり、ちょっとした小道具だったり、そういう魔法めいたものが何より嗜好にどんぴしゃだったので、『魔女の旅々』含め、この一連のシリーズをゆっくり追いかけていきたい。
背景に乱雑な本棚が写り込んでいるけれど、『魔女の旅々』の感想もまた追々ブログに書いていきたいな、と思っています。
そのうち。多分。いずれ。死ぬまでには。